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Information Gap Buster 特定非営利活動法人

【イベントレポート】聴覚障害者のライフストーリー手法を学ぼう!(6/29開催)


NPO Information Gap Buster勉強会

「聴覚障害者のライフストーリー手法を学ぼう!」インタビューから浮かぶ情景

―『ろう理容師たちのライフストーリー』を題材に―

2019年6月29日に目黒区の青少年プラザにて開催された、「聴覚障害者のライフストーリー手法を学ぼう!」の勉強会に参加してきました。

【イベント(6/29)】聴覚障害者のライフストーリー手法を学ぼう!

聴覚障害者のみならず、聴覚障害者の心理や教育、医療現場でのコミュニケーションを研究されている現役の社会人学生の方々も含めて60名ほどの参加がありました。

講師は一橋大学大学院言語社会研究科を修了された吉岡佳子氏。吉岡氏は、40年の英訳業のキャリアの傍ら、行政主催の手話講習会への参加をきっかけに手話を習得され、地域の認定手話通訳者として活動された経験をお持ちです。さらに、社会人大学院生としても長年研究に従事され、2019年の学位論文をもとに「ろう理容師たちのライフストーリー」(ひつじ書房)を出版されております。

まずは、最初の約1時間では、「研究」の一般的な取り組み方として、テーマの設定の仕方、研究資源の捉え方、そして研究方法のひとつとしてのライフストーリー・インタビューの概念に、対象者との出会いから分析・考察までの流れについてご説明いただきました。その要所で、吉岡氏がろう理容師の方々のインタビューにおいて注意されたことなどもお話しいただきました。

その後の質疑応答では、特にライフストーリー手法をとられている研究者の方からは、具体的な質問があがりました。例えば、一般のインタビューではICレコーダーなどを使用して音声のみを採集することが多いのですが、ろう者へのインタビューでは手話がコミュニケーション手法となるため、動画で記録を残すとのこと。その動画記録に質問者である研究者本人も写るのか、などといったことです(ビデオを観返したときのために、質問者も写るとのことでした)。

また、質問者の中には、自身の学究への意欲を再びかきたてられたことを吐露される方もいらっしゃいました。

休憩後は、オープンカフェ形式をとり、手話でのコミュニケーションを主とするグループと、手話通訳者やPC要約筆記者を含めた手話以外のコミュニケーションも行う混成グループの2グループに分かれ、講演の所感やそこから派生した各自の困りごとなどを絡めた活発な歓談が行われました。

筆者は混成グループに入りました。グループ内では、ろう者に対するモデル化として、医学モデル、社会モデル、そして文化言語モデルが試みられてきたと講演の中で話されていた内容への関心が高く、これらを当事者としてどのように解釈したか、しばらく談話が続きました。また、自身の経験をライフストーリーとして振り返るとしたら、聴覚障害者としてのアイデンティティに悩み続けているといったところがクローズアップされるだろうといった話もあがりました。このアイデンティティについては、障害の有無に関わらず誰もが悩むのではないかとなり、手話通訳の方にも「アイデンティティに悩まれたりします?」と話しが振られ、「アイデンティティねぇ…」しばし真剣に考え込まれた後に「考えたことないわぁ」との明るい切り返しに、一同どっと沸くといった場面もありました。

とにもかくにも、あっという間の2時間半でした。

ライフストーリーは研究手法のひとつになります。その手法は、何かしらの正しい答えを得ることを目的とするのではなく、人それぞれの生き方、生き様を丸ごと尊重することを支持するものであると考えております。

障害の有無に関わらず、あるいは、コミュニケーションの手段の違いにこだわらず、その人がその人らしい生き方をしていくことをお互いに応援し合い、尊重し合う社会の実現のためのひとつの方法としても、自分のあるいは相手の「ちょこっとライフストーリー」と向き合ってみるのもよいのではないかと思いました。

(文責:インターンシップ 記伊実香)

この記事のリンク | カテゴリ: 当事者研究, 講演・セミナー実施報告
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