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【イベントレポート】オンデマンド講演会「米国での遠隔医療手話通訳に対する医者とろう患者の評価比較」(2021年10月2日〜31日開催)


2021年10月2日〜31日に、手話による医療通訳推進プロジェクトの取り組みとして、オンデマンド講演会「米国での遠隔医療手話通訳に対する医者とろう患者の評価比較」が行われました。
講師は矢部愛子氏で、日本生まれのろう者で米国のイリノイ大学シカゴ校で障害学の博士号を取得し、現在は筑波大学人間系の障害科学域にろう者として初めて特任助教に着任し、国内外の大学と共同研究されています。
視聴者数は172名と非常に多くの方にご視聴いただきました。またグーグルフォームに記入していただきました質問の回答については下部のスライドの最後のところにまとめましたので、読んでいただけますと幸いです。
講演内容は、
第1部 自己紹介
第2部 博士課程の研究報告
第3部 日本と米国の医療通訳
第4部 今後の研究計画
の4部にわたってお話ししていただきました。

第1部では矢部氏より自己紹介があり、米国、英国での学生生活や大学での学びについてお話ししていただきました。

第2部では、米国の大学での博士号論文「米国での遠隔医療手話通訳に対する医者とろう患者の評価比較 混合研究法」の研究発表についてお話ししていただきました。
論文の内容は、まずコロナ禍を転機に米国の病院で急速に普及している遠隔手話通訳について利点と問題点があることを述べていました。
利点は、遠隔手話通訳は対面での通訳と比べ低コストであることと、緊急時の遠隔手話通訳者の確保が容易であることでしたが、問題点では、接続環境の制約で手話通訳者が見えづらい点があることと、予算カットのため遠隔手話通訳者の数を増やそうとする病院が増えつつあり、そのため通訳時の誤訳による誤診断のリスクが高くなることなどが挙げられました。
このような背景により、矢部氏は遠隔手話通訳と対面手話通訳について医者とろう患者の視点の相違点を中心に問題を取り上げました。また遠隔手話通訳に関する調査は少なく、医療従事者とろう患者が遠隔手話通訳をどのように評価しているかについての研究は本研究が初めての取り組みとのことでした。

研究手法は混合研究法で進められ、医者・ろう患者を調査対象者にし、それぞれにオンラインアンケート調査とインタビュー調査を行ったとのことでした。

研究結果では、重大治療と一般治療において好ましい通訳方法について尋ねたところ、医者は重大な治療の場合は対面手話通訳が好ましいが、一般治療においては予算の制約などを理由に対面だけでなく遠隔医療通訳も好ましいという回答が多く見られました。一方、ろう患者はどちらも対面手話通訳が好ましいという回答が多く、両グループに有意差が見られました。また医者に遠隔手話通訳やろう患者とのコミュニケーションの指導を受けた経験を尋ねたところ、「受けたことがない」という回答が多く見られました。遠隔医療通訳に関する研修の必要性について尋ねたところ、医者・ろう患者どちらも「必要である」という回答が多く見られました。

このような結果により、医者やろう患者に対する研修の必要性、また病院経営においては、遠隔手話通訳と病院内対面手話通訳の両予算のバランスの確保や遠隔通訳措置の改良が今後の課題として挙げられました。また医師にはろう患者が理解できる医療専門用語で説明するなどの配慮、ろう患者とその家族に対する権利保証と配慮も必要であるということも矢部氏は述べていました。

第3部では日本と米国の医療手話通訳の2つの相違点についてお話していただきました。
1つ目は、普及過程が異なるという点であり、米国では米国障害者憲法により、2000年以降に遠隔手話通訳が普及したが、日本では未だに普及されていないことを相違点として挙げられました。しかし昨今のコロナ禍をきっかけに遠隔手話通訳の必要性が高まったと矢部氏は述べました。
2つ目に、手話通訳の正式な依頼方法が異なるという点です。米国では、病院が責任を持って手話通訳者を提供することになっていますが、日本では手話通訳者が配置されていない病院があり、その場合患者が市役所を通して手話通訳者を手配する必要があります。その結果、病院側が手話通訳を提供するという意識が薄くなってしまい「手話通訳者は患者が手配するもの」という考え方が出てくる恐れがあり、この考え方では国家の社会福祉の充実という方向性からずれるということを矢部氏は指摘しました。

第4部では今後の研究計画について、聴覚障害者教員の教育的貢献についての研究や海外での研究活動も行っていることをお話していただきました。

最後に視聴者へのメッセージとして、矢部氏は「私は研究者としてあくまでも研究結果の情報を提供する立場にあるが、日本の社会を変える力は皆にある。それは皆の日々の関心と活動にかかっている。」と述べていました。

私もこのオンデマンド講演会を視聴しましたが、第3部のアメリカと日本の違いについては、大変興味深い内容でした。多様な人種がいる国だからこそ医療での通訳の必要性が高まり、また米国障害者憲法により医療手話通訳を先進的に取り入れることができたのだと改めて知ることができました。
日本でもダイバーシティという考え方が浸透してきましたが、矢部氏の最後の「日本の社会を変える力は皆にある」というコメントの通り、私たちが声を上げ続けることで医療手話通訳の必要性を知ってもらい、普及に繋がっていきたいと感じました。

(文責:大高有紀子 NPO法人インフォメーションギャップバスター・インターン生)

この記事のリンク | カテゴリ: お知らせ, 医療手話通訳
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