イベント(10/20開催)「差別禁止法令を上手く適用するには?」の報告
2017年10月20日にパネラーとして、若林 亮氏(法テラス東京法律事務所常勤弁護士)及び熊谷徹氏(IGB副理事長・神奈川県聴覚障害者福祉センター施設長)をお招きし、合理的配慮をどのように理解してもらうのか、どのように進めるのかといったところにフォーカスして、より実践的な内容をお話ししていただきました。
2016年5月21日に「事例で学ぶ差別禁止法令」というテーマで定例会を実施しました。その際の反響が大きく、ディスカッションの時間が足りない、もっと深掘りして欲しいという意見が多くみられました。特に、聴覚障がい者が仕事に参加することでの成果を考慮すれば、企業としても見えない壁を解消することで、生産性があがりメリットがあるため、それを含めてよく話し合うことが大切だということが挙げられました。今回は、この続編の位置付けで、実際の職場で差別禁止法令を遵守するためのアプローチを学ぶことを目的として開催しました。
最初に、若林 亮氏より、「差別禁止法令を生かす」というテーマで、差別禁止法令の概要と事例の紹介をしていただきました。
まず、差別と思われる事例として、以下の例を挙げていました。
- 求人で電話応対が条件とされたケース
- 採用時、面接でコミュニケーションが取れず、採用を拒否されたケース
- 会議で手話通訳設置を要望したが、企業秘密漏洩を理由として拒否されたケース
また、障害を差別とする理由を、医学モデル、社会モデルの2つの視点から述べていました。
- 医学モデル:現代医学を前提にし、障害の克服(=更生、リハビリ)を本人の努力に委ねる→個人の責任に帰着するため差別が生じやすい。
- 社会モデル:聴こえないことで社会生活上生じる不便,困難⇒ これこそが「障がい」
→社会も本人と一緒に解決しようと言う発想、そこから「合理的配慮」に結びつく
障害者差別解消法では民間は努力義務だが、障害者雇用促進法は、民間でも努力義務が課せられる。障害者雇用促進法では、差別と思われる事が起きた場合の解決方法として、以下の方法を明示している。
- 事業主と話し合って自主的に解決する。
- 都道府県労働局より助言、指導、勧告を行う。
- 紛争調整委員会による調停を行う。
- 裁判を行う。
勝訴した事例として、岡山短大の視覚障がいのある准教授が受けた差別を挙げていました。大学側が視覚障がいを理由に,授業,卒論の担当から外して、事務職への配置転換命令を出した。この配置転換命令が裁判の結果、違法・無効とされたとのこと。
差別を受けたと思われる場合は、一人で悩まずに、東京障害者職業センターや東京ジョブコーチ職場定着支援事業に相談することを勧めていました。また、これらのプロセスを踏む時は、差別と思われる理由、根拠、エビデンス(証拠)をしっかりと準備して臨むこととを強調されていました。
次に、熊谷 徹氏より、「ろう運動における差別禁止法制」というテーマで、ろう運動における差別禁止法令の事例の紹介をしていただきました。
某市で、通路で倒れたろう者が119番通報した際、手話通訳を要請したにも関わらず、筆談での対応をされた事例の紹介がありました。某市では、その後、対応マニュアルを見直した上で、手話通訳を要望された場合は、手話通訳を派遣することを明記しました。このような対応は、各市町村レベルで対応をすることになっているので、全国的に統一するのは難しいとのことでした。
最後に、若林 亮氏、熊谷 徹氏に加えて、IGB理事長 伊藤 芳浩の3人によるパネルディスカッションが行われ、会場からの質問に答えつつ、現実的な「合理的配慮」のあり方について、議論がなされました。
今後は、以下の対応が必要であるとの意見にまとまりました。
- 聴覚障がい者の社会モデルの考え方の啓発(当事者、関係者の双方)
- 合理的配慮の考え方の啓発(当事者、関係者の双方)
- 差別と思われるケースに当たったときの解決方法の学習(当事者)
今後も合理的配慮については継続して企画する予定です。
(文責:IGB理事長 伊藤 芳浩)