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Information Gap Buster 特定非営利活動法人

3月イベント「聴覚障害者のコミュニケーション能力の育成について考える」開催レポート


IGB会員の小谷野依久さんによる開催レポートです。


よい講演が終わったあとは、参加者がなかなか帰ろうとしないものです。

先日の講演は、参加者のほとんどが時間いっぱい部屋にとどまり廊下にでても話が尽きないほど、大きな影響を与えた様子でした。

橋本先生からは、なにがあっても僕はろう者の味方でいるんだというゆるぎない覚悟を感じました。そんな橋本先生のような人がろう者には必要です。

橋本先生のお話のなかで印象に残ったのは「ひよこっち」についてです。

「ひよこっち」という会の目的は、2つあるのだそうです。ひとつは、ろう児たちが自分を好きになること。ふたつめは、自分たちの理解者を自分たちで作ること。

どういうことをしているかというと、たとえば、ハチ公を見たことがないと言えば渋谷にみんなで見に行く。クレープを食べる。字幕付きの映画を見に行く。それから手話を教えたり交流をしたりして、そうやって経験を増やしていく。そうすると子供たちは経験で成長し変わっていきます。でも、一番変化があったのは、保護者だったそうです。

以前、IGBの例会で肢体障害者の情報格差をテーマにした講演がありましたが、その時に聞いた「経験という見えない情報格差」の話を思い出しました。それは、社会に出たろう者が、経験値の少なさから指示待ちになりがちで積極性が足りないと言われてしまう部分に重なりました。そういった課題も、この橋本先生の活動で早いうちに解決でき、さらに理解者の作り方を自然と学び、自己肯定感も育つ。そして親が子供の成長とともに成長する。橋本先生がそこまで見ていて、それに喜びを感じていることが素晴らしいと思いました。

できることならこうありたいと願いながら、時間に追われてできないでいる教師が日本にどれほどいることでしょうか。私自身も、4月からまた入社してくる、聞こえない新入社員たちのために自分にできることはないかと考えるよい機会になりました。

松崎先生のお話は、リテラシー教育について。ろう者による講演は手話単語を覚えられるのも良いところです。「演習」「教養」「フィードバック」を覚えました。

最近、よく目にするリテラシーという言葉。もともとは読み書き能力のことですが、今は意味合いが進化して、あらゆる情報を理解し精査し活用できる能力という使われ方をするそうです。ろう者にとって日本語の読み書き能力は課題です。しかし、日本語の読み書きができるだけでは教養とは言えず、さまざまな事象を関連付けて問題解決に活用できる力を持つ重要性をお話しされていました。

自分に不足しているリテラシーをどのように克服するか。そもそも何が不足しているのかを知るにはどうすればいいのか。松崎先生は周りの人に協力をしてもらい、なにが問題だったか、例えば発表をした際にどの部分の言葉がきつかったとか遠回しの言い方を教えてもらったり、トライアンドエラーを繰り返しながら学んだとのことでした。

さらに松崎先生は情報保障を受けるにあたり、目的と手段を混合してはいけないと指摘します。「情報保障はなんのためにあるのですか?」と松崎先生は問いかけました。「皆と一緒に仕事をするため、ですよね」。情報保障を受けることが目的になってしまってはいけない、情報保障はあくまでも手段。情報保障を使って、なにをするのか。目的を見失ってはいけないと。これは当事者の声だからこそ響く言葉です。

情報保障を得る機械は増えています。それに安心して、情報保障がありました♪では終わらず、情報保障を活用できる目的を常に持って機会に臨みたいものだと気持ちが高まりました。(なんて、そんな立派なことを言っても、現実はまだまだなのですが…)

ラストは水野先生。おっとりした雰囲気から一転、本質を突いたお話をするので楽しみにしていました。さすがに女性ならではの細やかな気配りといいますか、まず資料がすばらしい。通常、印刷されたスライド資料は始まるまで順番がわからないものですが、水野先生の資料にはシートの順番の説明がありました。さらに聴覚障害参加者は、話者を見てスライドを見て手話通訳を見て要約筆記を見て自分の手元メモを見て…と忙しく、目を離したすきにスライドが変わってどこをやっているのかわからなくなる…なんてことがありますが、水野先生はスライドのページ番号と章番号が最初から画面に書き込まれているというアイデアを実施。私もこのアイデアをぜひ使わせていただこうと思います。

私は今回、職場の環境改善のために、聴者と聴覚障害者の両方がお互いを理解できるようなプレゼンをするためによい事例はないかと思って参加したのですが、水野先生のお話はとても参考になりました。

とくに印象的だったのは「情報」の種類についてのお話です。情報には3つの面があると。ひとつは「自分で入れる情報」(調べたり聞いたりして知ったこと)、ふたつめは「自然に入ってくる情報」(雑談や雑音など)、三つめは「誰かに意図的に入れられる情報」(広告や教育など)。確かに、どれも聴覚障害者が苦手なものばかりです。

「自分で入れる(取りに行く)情報」は意外と高度な能力で、まず自分に足りない情報を知っていてそれがどこにあるか知っている必要があると思いました。また、情報保障がないと情報を得ることが難しい場面も多い。

そもそも聴覚障害者には「自然に入ってくる情報」なんて皆無なので、それを「自分で入れる情報」か「誰かに入れられる情報」に変える能力が必要で、やっぱり簡単ではありません。

おそらく一番頼っている「入れられる情報」については、誰かが教えようと思ってくれたり上司が教育を受けさせようと思わなければ、機会は得られないかもしれません。

お話を聞きながら、ああ、そうだ、そうだったんだ!と、首の振りすぎでもげそうでした。

今回の講演、私にとっての一番収穫は、今まで漠然と思っていたことをズバリと見える文字化してもらえたことです。おかげで自分の障害について説明しやすくなりました。説明しやすいということは、理解を得られやすい話ができるようになり要求もしやすくなったということです。

今年度のIGBの活動にとても期待しています。どうもありがとうございました。

この記事のリンク | カテゴリ: お知らせ, 当事者研究, 講演・セミナー実施報告
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