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【報告】2018医療通訳シンポジウム in 川崎 詳細レポート


  • 日時:2018年9月17日(月・祝)10:15~17:30
  • 場所:川崎市国際交流センター
  • 参加者数:約320名

<内容>

講演① 外国語医療通訳 -神奈川県での取り組みをもとに- 岩元陽子氏

講演② 病院内手話通訳 -大阪での取り組みをもとに- 上妻佳美氏

講演③ 手話医療通訳(仮称)に必要なこと-ろう薬剤師の視点から- 柴田昌彦氏

パネルディスカッション 通訳事例検討会(医療知識が必要な事例)

司会:杉原大介氏

パネラー:岩元陽子氏、上妻佳美氏、柴田昌彦氏、川上恵氏

2018年9月17日(月・祝)に「2018医療通訳シンポジウムin川崎」をNPO法人川崎市ろう者協会と共催で行いました。多くの団体のご協力とご支援のおかげで、無事に終えることができました。誠にありがとうございました。当日は、北海道から沖縄まで、総計320名の参加がありました。また、薬師寺みちよ参議院議員と田村伸一郎川崎市会議員も参加されるなど行政の方も関心を持っていただきました。

事前アンケートによれば、「医療通訳という言葉を知っていますか?」という問いに「知っている」という方は、53%、「だいたい知っている」という方を合わせると76%と、多くの方にとって関心が深いテーマであったと思います。また、事前アンケートの中で、「病院内に手話通訳を設置することは必要と思いますか?」という問いに81%ものの方が「とても思う」と回答しています。「やや思う」と回答している方を合わせると、98%ものの方が必要と回答している通り、病院への設置通訳のニーズは非常に高いものがあります。

2018医療通訳シンポジウムin川崎では、「手話通訳者に医療知識は必要か?」をテーマとして、様々な立場の方の講演とパネルディスカッションを実施しました。

 

■講演① テーマ「外国語医療通訳」ー 神奈川県での取組みを中心に ー

講師 岩元陽子氏(英語通訳者、通訳コーディネーター)

国内の外国人患者の医療通訳をサポートしているNPO法人多言語社会リソースかながわ(MICかながわ)の副理事長を務めておられる岩元陽子氏から、外国語医療通訳の取組みや必要性について語って頂きました。

 

(1)NPO法人MICかながわの紹介

  • 2002年4月に設立し、外国人患者の医療通訳派遣を中心に事業運営を行っている。
  • 約70病院に年間約7,000件(1日に約30人)の医療通訳が行われている。
  • 言語は12言語をサポート、医療通訳スタッフは185名。英語、中国語、スペイン語、ポルトガル語、韓国朝鮮語、タガログ語、タイ語、ベトナム語、カンボジア語、ラオス語、ロシア語、フランス語

(2)外国人医療と外国語医療通訳について

  • 外国人とは、日本に一時的に滞在、または、日本に在住している外国人の患者が対象である。
  • 現在、日本に在住している外国人は、2018年で256万人、国籍は180ヵ国以上である。
  • この中の約40%の人は一人で国内の病院に行くのが困難である。(言葉の壁、文化の違いによる)
  • 外国語医療通訳においては、以下の課題があげられている。
    • 母語の通訳が望ましいが、言語の数が多く、これらに対応出来る通訳者の確保が困難。
    • 医療機関の理解不足により、外国人患者が言葉の分かる人との同行を求められる。
    • 医療通訳の報酬、通訳費用の負担についてコンセンサスがなく、行政の予算確保も困難である。
  • 医療通訳先進国の米国では法律や制度が整備されている。
  • 誰もが病気や怪我の時は、適切な医療を受ける権利があるにも関わらず、言葉の壁や経済的な理由などでその権利が奪われることはあってはならないと考える。

(3)神奈川県の取組み

  • 外国人の当事者の声を聞きながら、行政・民間・医療団体の協定の下で制度化、医療通訳派遣の環境づくりに取り組み、神奈川県は、「かながわ医療通訳派遣システム」を発足させた。
  • 行政側は、通訳の身分保障、財源確保、協定病院の開拓等の事業基盤整備を行っており、NPO法人MICかながわは、医療通訳者の養成と派遣実務を中心に運営している。
  • 神奈川県の医療通訳制度では「患者」でなく、「医療機関」が通訳を依頼する形をとっている。言葉の壁がある患者に対して適切な医療を提供するには通訳が不可欠であるという自覚を持ち、通訳を用意してもらう。万が一の誤訳による医療事故に備え、MICの通訳を当該病院の準スタッフと位置付け病院賠償責任保険でカバーしてもらうことによって、医療通訳者を守る体制をとっている。
  • 協定病院に対しては、医療通訳者が現場で困った時に相談出来る窓口や、事前情報提供が不可欠であり、協力を求めている。
  • NPO法人 MICかながわにおける医療通訳の新人は、公募から始まり、4日間(約20時間)の座学と実技(ロールプレイ)を通して選考し、登録するというシステムになっている。
  • その後、スーパーバイザーと同行して研修派遣をしながら独り立ちして通訳出来るように育成している。
  • 年に3回の全体研修、毎月又は隔月に言語別勉強会も行われており、医療通訳現任者のフォローアップ研修にも取り組んでいる。
  • 病院に常駐または定期配置されている医療通訳者は、外国人患者全員が受診しやすいように病院に対して院内調整も行っている。
  • 手術室に同行することもある。(部分麻酔で患者に意識がある場合のみ)

(4)医療通訳に「医療知識」はなぜ必要か

  • 医師たちの話を外国人患者へ忠実に伝える(足さない、引かない、変えない)ことが医療通訳の鉄則である。
  • 「医療用語」そのものがまず大事であるが、その国の言語や文化には一般レベルで理解できる言葉がない場合や病気に関する知識が一般的に浸透していない場合には、医師などに確認の上、医療用語の意味や中味を説明したり、やさしい言葉で言い換えるなど、患者が理解できるよう通訳する必要がある。
  • そのため、日本語の医療用語も含めて、医師たちの話の内容を正確に理解して訳すために医療知識が不可欠である。特に、基本的に体の仕組みを知り、疾患の知識を得ることが重要。
  • 医療に関する文化・制度・価値観は国や地域によって異なるため、日本語をそのまま忠実に訳したのでは誤解を招く可能性がある場合、「文化的な介入」が不可欠である。

以上、岩元陽子氏の講演は、外国人の医療通訳に関して、国内では先行的にいろいろな取組みをされている話を伺い、参考になりました。また、特に医療通訳には「文化的な介入」も不可欠であることに共感を持ち、印象に残りました。

■講演② 病院内手話通訳 -大阪での取り組みをもとに-

講師 上妻佳美氏(手話通訳士)

地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪精神医療センター専任手話通訳者上妻佳美氏に、大阪府内の病院内設置手話通訳者の状況を中心にお話しして頂きました。

大阪では7つの病院に手話通訳者が設置されています。以前に大阪府がオリンピックの候補地となった際に、大阪府病院局が病院での外国語サービス開始したのをきっかけに、大阪聴力障害者協会が手話もと交渉した結果として実現しました。

設置手話通訳者のほぼ全員が、医療の専門知識がない状態で入職し、試行錯誤しながら進めていました。設置手話通訳者の利点として、病院内に手話通訳者がいる安心感、カルテから患者の背景としての情報を得やすい、入院患者への対応がスムーズである等を挙げていました。逆に欠点としては、いつも同じ通訳者であること、他のろう患者に会う確率が増す、職場の人間関係等を挙げていました。その上での課題として、休みにくい環境や通訳者の心のケアなどがあり、負担の大きい部分については考えさせられる問題でした。しかし、設置手話通訳者は、病院内で最も聞こえない患者に寄り添える存在であることも強調されていました。

病院職員と連携しやすい面から、患者対応と精神科の病気について、看護師等らとのマンツーマンで個別指導して頂くといった工夫もされていました。そして、医療知識も重要だが医療の仕組み、病院の仕組みの知識が必要であり、医療の仕組みとしては、医療費助成、生活保護を受給している場合など、病院の仕組みは初診の受付時間、紹介状の有無、費用などの幅広い知識が必要となります。他にも月に1度の大阪府内の病院内設置手話通訳者等が集まる定例会議では、労働、医療、技術などの様々な問題に対する意見交換や事例検討により、情報交換をされていることをお話しして頂き、非常に興味深い内容でした。

■講演③「手話医療通訳(仮称)に必要なこと」~ろう薬剤師の視点から~

講師 柴田昌彦氏(薬剤師)

地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪急性期・総合医療センター薬局勤務の柴田昌彦氏に、ろう薬剤師の視点から様々なお話しをして頂きました。

ある調査では、手話通訳者の技術が心配であるというろう者が42%もいました。また、「医療・お薬相談会」を開催したところ初めて相談できたというろう者は90%以上でした。医療手話通訳において医療の知識は当然必要です。しかし、「知識は必要」といっても、医療用語の単語のチェックや表面的な把握だけではろう者に伝わる通訳はできません。(特に日本手話を第一言語とする高齢者に対して)。意味を掴んで、どのように日本手話へ変換するかというところまで考えてこそ、初めて適切な通訳が出来るのです。

<誤解例>

例えば、「30分間横にならずに」を何もせずにずっと立っていなくてはならない、「朝食は30分以上経ってから」は30分ちょうどに食べ始めなければならない、「食後に薬を飲む」を食べるのは後と誤解した等の例があります。残念ながら、手話通訳が同席していてもそのような誤解が起きている場合があります。

<通訳例>

「飲まなければならない」は<飲む><必要>、「新しい薬」は<薬><変える>または<追加>。「水分」は水だけでなく、お茶、ジュースなど具体的に補足してください。「塩分」、「糖分」も同じです。「○○の薬(例:便秘の薬)」は<症状><薬><どうなる>といった通訳をすると良いです。また、塗り薬はうすく広く塗る、患部だけに塗るなど塗り方を確認してから通訳する必要があります。このようなところに気を付けて通訳してほしいです。

「医師が言っていないことは通訳できない」と通訳者から言われることがありますが、一つ一つ医師に言わせなくてはならないのでしょうか。また、ろう者は知識がないと言う通訳者もいますが、ろう患者の方が通訳者よりも知識を持っている場合は多いです。近年では医療従事者のろう者も誕生しています。

医療知識を日本語だけではなく、日本手話でかつ、ろう者の思考で学ぶ必要があります。また、医療従事者から信頼される通訳としては、知識に加え医療文化への理解も必要です。アメリカではろう者の医師による手話医療通訳者の養成もあり、日本でもそのような機会を作りたいと考えています。

■パネルディスカッション 通訳事例検討会(医療知識が必要な事例)

3人の講師の他に、沖縄の聴覚障害者情報センターの手話通訳のコーディネーターを務めており、また、国内初の全米手話通訳者登録協会(RID)認定ろう通訳士でもある川上惠氏も参加され、NPO法人川崎市ろう者協会手話対策部長の杉原大介氏の司会によって行われました。

67歳のろう者(男性)の患者をモデルに、手術後初回外来で、医師から今後の治療方針の説明を受ける場面を想定した医療通訳のあるべき姿、また、そのためにはどんな医療知識が必要なのかをテーマにあげてディスカッションが行われました。

ろう者の患者に対する医療通訳も、外国人の医療通訳と同じく、医療知識が不可欠であることに同意しており、また、手話医療通訳者を養成するためのカリキュラムを整備するための必要事項についても議論されていました。

一方、最近、各地域でろう者の第一言語(母語)である手話言語条例の整備が進んでいる中、医療専門知識を身に付けることも重要ではあるが、ろう者のコミュニケーション方法は個人によって様々であり相手に合わせたコミュニケーションを意識した通訳もポイントであり、養成カリキュラムには不可欠であるという意見も出ていました。このことからも、ろう通訳士が入ることも意義があるのではないでしょうか。

今回のパネルディスカッションを通して、聴覚障害者の患者との医療通訳においても医療知識が必要であり、手話医療通訳者を養成するためのカリキュラムを整備することが重要な課題テーマであることが再認識されていました。

会場からの質問が相次ぎ、パネルディスカッションも盛り上がり、時間が足りないまま終了となってしまいました。最後の挨拶では、NPO法人川崎市ろう者協会理事長の出口賢一氏が、市立川崎病院にも手話通訳者を設置できるようにとお話しして頂きました。

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