Information Gap Buster 特定非営利活動法人

【イベントレポート】オンライン対談「あなたの声を、あなたの力を〜リプレゼンテーションが変える職場の未来〜」

2025年5月22日19:30から21:00にかけて開催されたオンライン対談「あなたの声を、あなたの力を〜リプレゼンテーションが変える職場の未来〜」は、障害者の職場での真のリプレゼンテーションをテーマに、約100名の参加者(アーカイブ視聴を含む)が集まり、インクルーシブな職場環境の構築について活発な議論が交わされました。

イベント概要

本イベントは、NPO法人インフォメーションギャップバスター主催により開催され、世界経済フォーラムで発足した「Valuable 500」が推進する「障害者の真のリプレゼンテーション」という概念を職場環境に応用することを目的としていました。

ファシリテーター: 和田菜摘氏(Valuable 500 Engagement Lead/PROJECT SOLIT 社会的インパクトおよびパートナーシップ統括責任者)

登壇者:

  • 田中美咲氏(SOLIT! 代表、社会起業家・ソーシャルデザイナー)
  • 伊藤芳浩氏(NPO法人インフォメーションギャップバスター理事長、情報アクセシビリティ向上に取り組む社会活動家)

主要テーマと議論

1. 「真のリプレゼンテーション」の理解

伊藤氏は、「真のリプレゼンテーション」について、あらゆるメディア、コミュニケーション、顧客接点において、個人の体系的かつ真摯な表現を伴うものであると説明しました。これは単なる数値目標の達成を超え、障害のある人々の現実の経験が真に表現され、意思決定権を持つ本質的なインクルージョンを実現することの重要性を示しています。

このアプローチには以下のコアとなる原則が含まれます:

「私たち抜きに、私たちのことを話さないで」 – 製品やサービスは、対象となる人々との協力によって設計されるべきであり、これにより将来の問題や再設計を回避できます。

本物のストーリーテリング – 障害のある人々を「かわいそうな対象」として描くことから脱却し、多面的な人生と感情を持つ一人の人間として表現することです。

デザインによるアクセシビリティ – アクセシビリティは後付けの機能ではなく、設計の初期段階から中心的な要素として組み込まれるべきです。田中氏のSOLIT!では、多様な体型に対応した機能的でファッショナブルな服をデザインしています。

組織全体のコミットメント – CEOや経営層といったリーダーシップが、インクルージョンの推進にコミットしている必要があります。

文化理解と配慮 – 多様な背景や環境を理解することは、適切な製品、サービス、職場環境を構築するために極めて重要です。

継続的な評価 – 取り組みは継続的に評価され、フィードバックが改善のために組み込まれるべきです。

2. 企業におけるリプレゼンテーションの課題と機会

田中氏は、多くの日本企業が女性役員比率や障害者雇用率といった数値目標を認識している一方で、個人がどのように表現されるかについて真剣に議論している企業は非常に少ないと指摘しました。特に問題となるのは、ダイバーシティ推進担当者の無意識の偏見により、障害のある個人を「見える化」したり含めたりしようとする努力が、かえって区別を強化したり、障害を理由に個人を枠にはめたりしてしまうことです。

田中氏は、個人の多層性について強調しました。例えば、ある人は女性であり、経営者であり、精神疾患を持つ障害者でもあるというように、一つの属性だけに焦点を当てることは制限的であり、差別につながる可能性があります。

伊藤氏も自身の経験から、聴覚障害者として支援を受けている際に、他の多くのアイデンティティよりも聴覚障害という側面だけで見られてしまうことが多いと語りました。自著「だいじょうぶ! 一勇気を出せば、世界はもっと広がる一」にて取り上げた「ラベハメ」(有害なラベリング)について説明し、それが個人の良い面を覆い隠してしまう危険性があることを指摘しました。

この問題に対し、組織は単に偏見を認識するだけでなく、多様なグループとの対話や交流に積極的に参加することが提案されました。社内コミュニティ(障害者ERGなど)の構築が、重要な第一歩となり得ます。

3. コミュニケーションと理解促進のための戦略

伊藤氏は、障害のある人々が直面する課題を理解してもらうために、「もしあなたがそうだったらどうだろうか」と問いかけることで共感を促すことの重要性を強調しました。一人ずつ関係を築き、ネットワークを広げていくことは、居場所を作り、個人が自分らしくいられる環境を作るために不可欠です。

田中氏は、日本企業と海外企業のアプローチの違いについて言及しました。ロンドンなどの企業では、アクセシビリティと人権を企業価値の源泉として根本的なものと捉えている一方、日本企業では売上との直接的な関連性を問うことが多いという現状があります。もし利益が推進力となるならば、インクルージョンによる経済的利益を示すことも有効なアプローチであると提案しました。

伊藤氏はさらに、アクセシビリティをより広い対象者(例:エレベーターがベビーカーを押す親や高齢者にも役立つこと)に利益をもたらすものとして位置づけることで、受け入れられやすくなり、売上への肯定的な影響を示すことができると説明しました。また、日本では人権が基本的な権利というよりは道徳的な観点から見られることが多く、「特別扱い」ではなく必要な合理的配慮としての認識がまだ低いことを指摘しました。

4. 職場におけるリプレゼンテーションのための具体的な行動

両登壇者は、リプレゼンテーションを促進するための実践的なアドバイスを提供しました。

サポートネットワークの構築 – 伊藤氏は、味方や個人のアイデンティティを真に理解し受け入れる人々の必要性を強調しました。また、自身のアイデンティティとニーズを明確に言語化することの重要性も述べました。

声を上げ、協力する – 田中氏は、差別的な行動に異議を唱えることを奨励し、変化には従業員、マネージャー、役員を含む集団的な努力が必要であると強調しました。また、個人が包括的な会社を積極的に探し、才能のある人々がより良い会社に移ることで、包括的でない会社に変化を促す動きを起こすことも有効であると示唆しました。

効果的なコミュニケーションとブランディング – 和田氏は、仕事で関わっている多くの日本企業が、対内外への情報発信に弱みを持ち、実際に発信が十分に行われていない現状を指摘しました。そのうえで、失敗を恐れることなどによって発信を躊躇するのではなく、ダイバーシティとインクルージョンの取り組みについて積極的に発信すべきであり、そうした発信は企業の社会的責任の一環として重要であると述べました。

5. 特定の懸念事項への対応

アクセシビリティのコスト – 手話通訳などのサービスのコストに関する懸念について、伊藤氏は、事前に原稿を提供するなど、過度な負担にならない範囲での代替案を検討し、建設的な対話を通じて相互に合意できる解決策を見つけることを提案しました。田中氏は、UDトークのようなツールや、費用を参加者間で分担するモデルも有効であると付け加えました。

メディアでのステレオタイプの回避 – 障害のある人々を特集する際、田中氏は、障害が彼らの成功の唯一の理由であるかのように強調するのではなく、個人としての功績に焦点を当てることを勧めました。障害は彼らの多くの属性の一つに過ぎません。伊藤氏は、記事やメディアの作成プロセスに障害のある人々を参加させることで、本物の表現を確保し、「感動ポルノ」を避けることができると提案しました。彼は、制作側(例:カメラマン、ライター)に障害のある個人がまだ非常に少ない現状を指摘しました。

外部からの認識 – 外部のパートナーが障害のある個人を受け入れないという問題については、伊藤氏は、これはパートナー側の理解不足を反映していると述べ、企業内だけでなく、バリューチェーン全体にわたる理解とリプレゼンテーションが必要であることを強調しました。

まとめ

本セッションは、真に包括的な職場を創造するためには、従来の数値目標を超えた「真のリプレゼンテーション」の実現が不可欠であることを明確に示しました。それは障害者をはじめとする多様な背景を持つ人々の声が尊重され、意思決定に参画でき、一人ひとりの力が最大限に発揮される環境づくりを意味します。

Valuable 500という国際的なイニシアチブの概念を日本の職場環境に適用することで、企業は単なるコンプライアンスを超えた価値創造を実現できることが示されました。継続的な努力、多層的な協力、そして考え方の根本的な転換を通じて、誰もが自分らしく力を発揮できる職場の実現に向けた具体的な道筋が提示された、意義深いセッションとなりました。

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