【報告】文化庁メディア芸術祭 視聴覚障害者向けワークショップ(2/7開催済)
2/7は初のコラボ企画として、視聴覚障害者向けワークショップに協力団体として参加しました。これまで視覚障害者、聴覚障害者の作品鑑賞ワークショップを別々に実施してきましたが、「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」という団体の開催するワークショップに聴覚障害を持つIGBのメンバである伊藤が数回参加させていただきました。
そこでの多様な立場・視点をもつ方同士がコラボする鑑賞スタイルがとても好評だったため、今回ご縁があって文化庁メディア芸術祭でも実施することになりました。「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」と協力して開催することができました。イベントとして「視聴覚障害者」向けとしたワークショップははじめての試みで手探りする部分が多くあり、多少不安を抱えなからの参加でした。
参加者は24名で2チームに分かれて、優秀賞を受賞したメディアパフォーマンス作品『Nyloïd』を鑑賞しました。ランダムな動きとそれに調和した音のコラボは大変興味深いものでした。参加者の中には見えない方、聞こえない方などがいて、それぞれのグループの中で参加者同士で情報を交換し合いながら、見えるものや聞こえるものを説明したりしました。普段以上に感性を研ぎ澄まして言葉にしてサポートする場面がいくつか見られました。そのような自然な形でお互いに補完しあう姿が大変調和的で素晴らしく思いました。
作品に関してはメッセージ性は特にないそうなのですが、抑圧・解放の繰り返しとか、人工生命体みたいでかわいいとか色々な感想がでました。多種多様な立場・視点からさまざまな感想がでて興味深いものでした。
作者であるCod.Act(Michel DÉCOSTERD / André DÉCOSTERD)をお招きして仏語通訳を交えながら作品の制作の裏話やメカニズムなど普段聞けない貴重な話を伺うことができました。
想定よりも多くの質問が相次いで時間内に質問しきれない人が続出するほど大盛会でした。
また来年も機会があれば実施できたらと考えています。通訳やボランティアや事務局の方に色々と協力しあって良い企画にすることができて本当に有り難かったです。どうもありがとうございました。
◆『Nyloïd』鑑賞ワークショップ~視聴覚障害者とともに~
写真は「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」のChisaki Nakamuraさんのご好意で提供していただきました。どうもありがとうございました。
鑑賞前のオリエンテーションの様子です。
写真:(C) Chisaki Nakamura
伊藤チームのメディアパフォーマンス作品『Nyloïd』鑑賞中の様子です。
写真:(C) Chisaki Nakamura
林チームのメディアパフォーマンス作品『Nyloïd』鑑賞中の様子です。
写真:(C) Chisaki Nakamura
鑑賞後グループ内で感想を共有しています。
写真:(C) Chisaki Nakamura
作者の兄弟(Michel DÉCOSTERD / André DÉCOSTERD)を交えてフリートークを行っています。
写真:(C) Chisaki Nakamura
【ボランティア:宮本昭枝さんレポート】
(午前中)
まず、今回の鑑賞対象である作者の、過去の2作品をプロジェクターで鑑賞。音響と動きが連動する作品ということで、音については他の参加者に尋ね伝えてもらう。しかし、言葉で説明するのが難しいらしく、どんな音なのかイメージすることが難しい。伝えてもらった情報には本人の感想も混ざるため、それが自分自身でイメージすることを難しくさせている。手話通訳士を見ても「○○のような」というあいまいな表現で、空気をつかむようなもどかしさ。
(午後、鑑賞)
時折音が聞こえるがほとんど聞き取れない、どこから音がするのかも分からない。午前中もそうだったように、自然に存在しない音を言葉で説明してもらうことは難しい。難聴2級で音を感じるためには映画館並みの環境が必要。背中の壁に手をつくと振動が伝わる、その話を健聴の人にし、低い音が響く様子、音が大きくなるタイミング等を手に触ることで伝えてもらうことにした。さらに、盲の方の手をとって、作品の形、作品の動き、サイズ等を伝えた。作品の小さな模型があれば触らせてあげたかった。
その後、各自感想をまとめ、作者への質疑応答。作者の話しのなかで興味をひいたのは、音響のパラメーター。パラメーターを鑑賞中に見ることで、感じることができない音部分がフォローされ、音も含めた作品全体をイメージがしやすくなるのではと思った。聞こえない立場としては、音の可視化はとてもうれしい。参加者の意見と作者の返答をまとめると、無機的なものを有機的にみせることが目的と思った。
【感想】
聞こえない立場としては、聴覚が必要な芸術作品の鑑賞はもどかしさが残り、難しいと思いました。芸術のプロではない一般の方が、さらに特に前衛的な芸術作品について、他人に説明することは難しいのかもしれません。表現力に長けた人であれば違った伝え方ができるかもしれません。盲、聾難聴、健聴、この三者が共通して持っているものは「触覚」ですので、触覚を利用することが、今回のような芸術作品で感じたことを共有する手段になりえるかもしれない と思いました。私はまだ聴覚が残っているので、ヘッドホンをつけて一人で鑑賞してみたい。
聞こえても理解できるわけではないということ、見えないということ、聞こえないということ、がどういうことなのかが新しい気づきであったと思います。
難しい企画ですが、一生懸命説明しても伝わらないもどかしさから想像力が養われ、新しい気づきも得られる試みだと思います。学校教育でも取り入れてほしいと思いました。