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【イベントレポート】『2019 医療通訳シンポジウム in 川崎』(11/17開催) (詳細版:その1)


2019/11/17(日)にNPOインフォメーションギャップバスター主催にてに「2019 医療通訳シンポジウム in 川崎」を開催いたしました。既に下記の通り速報版レポートを発行済みですが、今回は、講演内容の詳細をレポートいたします。

【イベントレポート】『2019 医療通訳シンポジウム in 川崎』(11/17開催) (速報版)

【はじめに】

日時:2019年11月17日(日)10:15~17:00

場所:川崎市国際交流センター

参加者数:約260名


<内容>

講演① 市立札幌病院の取組み ~手話を医療の架け橋に~ 濱野亮子氏

講演② 鹿児島市立病院の取組み ~院内手話通訳として~ 山口龍子氏

講演③ 国立国際医療研究センター病院 国際診療部の取り組み 小山内泰代氏

トークショー 手話通訳者設置病院を増やすためには何が必要か?

司会:吉田将明氏

シンポジスト:濱野亮子氏、山口龍子氏、小山内泰代氏、大杉豊氏


2019年11月17日(日)「2019医療通訳シンポジウム in 川崎」が開催されました。5回目となる今回のシンポジウムでは260名を超える方に参加いただきました。

厚生労働省の平成30年度障害者総合福祉推進事業指定課題11として『専門分野における手話言語通訳者の育成カリキュラムを検討するためのニーズ調査事業』により、医療分野の課題やニーズが整理されました。また、本シンポジウムの参加者事前アンケートの結果、病院内設置の手話通訳者に必要な専門性について、89%の方が「医学的な基礎知識」、84%の方が「手話通訳技術」、84%の方が「現場対応力」と回答されました。厚生労働省による調査結果と参加者事前アンケート結果をもとに、院内通訳体制について講演とトークショーを実施しました。

開催にあたり、前参議院議員薬師寺みちよ氏からはNPO法人インフォメーションギャップバスター(以下、IGB)と共に取り組みした電話リレーサービス、国の制度として準備を進めていただいていることを報告いただきました。医師でもある薬師寺氏は、手話による医療通訳の必要とその専門性を深く理解しておられ、本シンポジウムでさらに学び、施策につなげたいと意欲あるお言葉をいただきました。衆議院議員初鹿明博氏からは、医療・司法の場で情報の獲得が必要であるにもかかわらず不十分。手話による医療通訳が他人事ではなく、自分事として受け止められること、そして、国がきちんと整えていくことが大事。手話による医療通訳が国の制度として進められるよう努めたいと力強いメッセージをいただき、シンポジウムがスタートしました。

【講演① 市立札幌病院の取組み ~手話を医療の架け橋に~】

講師:濱野亮子氏

市立札幌病院 専任手話通訳者

講演1の様子 「市立札幌病院の取り組み -手話を医療の懸け橋に-」 講師:濱野亮子氏(聴者、手話通訳者)

1つ目の講演では、市立札幌病院の専任手話通訳者として活躍されている濱野亮子氏にご登壇いただきました。濱野氏が勤務する市立札幌病院は、今年2019年で創立150周年。北海道開拓期から北海道を支えている病院です。病床数672床。1995年に病院の移転を機に手話通訳者が設置されました。2013年から地域医療支援病院に指定されています。病院の入口には『手話通訳がおります』と表示があり、聞こえない人や聞こえづらい人も来院直後から安心して利用いただけます。

 

  • 市立札幌病院の手話通訳者設置

札幌市では、過去に手話通訳者を施設に設置する度に、手話通訳者が頸肩腕症候群を発症させてしまうという苦い経験がありました。濱野氏自身も頸肩腕症候群で労災認定を受けた経験をお持ちです。

「手話通訳1名では頸肩腕症候群を発症リスクが高く、患者が安心して通院することができない。」

手話通訳者の病院設置には、(社)札幌聴力障害者協会から、①聴覚障害者の受療権の保障、そして②手話通訳者の健康の保障のために複数人設置、この2点の強い要望を受け、市立札幌病院では手話通訳者設置2年目から二人体制で運営されています。地域医療支援病院の指定を受けた影響で2013年以降市立札幌病院の総利用者数は減少しましたが、病院側の理解もあり、手話通訳を必要としている患者は特別に選定療養費の免除をして、逆紹介もあまりなされてないことから、手話通訳の必要な利用者の数は増加しています。

 

  • 手話通訳の業務

市立札幌病院の手話通訳者体制は、現在専任2名が第2種非常勤職員として勤務、必要に応じ代替手話通訳者が対応します。通訳者は診察・検査・手術・病棟対応・受診手続きなど院内のあらゆる所・場面に行き、手話通訳を行っています。

治療には患者への十分な情報提供と、患者さんの同意が必要です。手話通訳は、患者の気持ちの寄り添い、医療者との対話の促進を通してお互いの情報共有を進め、相互理解を支援する役割です。信頼関係の上に医療行為は成立します。その信頼関係の形成を支えるのが手話通訳なのです。

 

  • 医療者との連携事例

事例1 筆談できない感染症患者の病棟受け入れ

筆談できない患者が感染症で入院が必要。しかし病棟担当者は患者が筆談できないので二次感染のリスクから受け入れを躊躇。医師が「手話通訳がいる当院でなければ治療できない患者」と説得し入院受け入れ。病棟では、感染リスク軽減のために、病室に定時訪問することにした。定時訪問によって、病棟側は時間に合わせて事前に必要な準備ができ、患者側も訪問時間に合わせて伝えたいことを準備できた。また、絵の得意な看護師が絵カードを作成し、意思疎通しやすくするなどできることを持ち寄った。院内の担当チームを越えた協力で、患者を全快までサポートし退院まで漕ぎつけた。

 

事例2 患者さん本人が医師との意思疎通できることの大切さ

家族と来院していた聴覚障がい者。家族は医師の話す内容を理解していたが、患者さん本人にうまく伝わっておらず治療が進んでいないことに気づいた医師。医師の相談を受け、手話通訳が介入し、患者さん本人が医師の話を理解し、治療が促進することができた。

 

事例3 院内の手話通訳の浸透

院内でも科や病棟によっては医療通訳が浸透しておらず、医療者側がその必要性を理解していない場合もある。手話通訳者と一緒に対応していたある看護師が、別の部署に異動。異動先で手話通訳を利用していない患者さんや家族に気づき、手話通訳の利用を促して、手話通訳者が治療に関わることになった。さらにその病棟でも通訳の必要の理解が深まった。

 

  • コメディカルとの連携

院内の多種多様な職員との連携のために様々な工夫をしています。

・手話通訳者の連絡先カード

患者さんにカードを手渡し院内で携行してもらうことで、院内スタッフ誰もが通訳者を呼ぶことができる

・手話通訳のオリジナルシンボルマーク(通称”タツノコマーク”)

総合案内・新患受付に手話通訳のオリジナルシンボルマークを大きく掲示することで、来院者にマークの意味と手話通訳者がいることを周知。また、外来基本票、検査票などの書類の目立つ位置にこのマークを表示し、医療者に手話通訳が必要な患者であることを伝える。

・検査装置(例:レントゲン装置)

機器入れ替え時に合わせ、聞こえない患者さんにもわかりやすい機器(息を吸う・止めるタイミングなど図で表示など)を選定し機器を入れ替え。

・院外との連携

昨今では院外薬局が増加。院外の薬局やろうあ者相談員と連携することで、患者さんの生活サポートを、共通認識を持って対応できる。連携していく中で薬局自ら手話を学び始めるなど

 

  • 病院の手話通訳者として働くということ

病院は感染リスクの高い職場です。医療専門用語の理解や手話技術と同様に感染管理の知識が必要です。例えば、手術や検査では必須のマスク、しかしマスク着用は聴覚障害者には口元が見えないので伝わりづらく、そして伝わらないことで医療事故の可能性も高まります。院内で検討し、保護具を探してもらい、今は顔面全体をプラスチックの板で覆うグラスシールドを使って対応しています。このように知恵と道具を持つことで初めて医療現場に行くことができるのです。

 

  • 手話通訳が院内に常駐するメリット/デメリット

【メリット】

・いつでも対応できる

・同じ通訳者が対応できる(通訳者が変わることは、患者さんにも医療者にも不安要素)

・個人情報が院外に流出しない

・診療時間の短縮と情報量の増大による診察の質の向上

 

【デメリット】

・通訳者の採用条件が悪い:第2種非常勤職員

・毎日仕事の状況が変わる。予定を立てることができない:医療者共通の問題

・体力・メンタル面で自己管理が要求される。自己管理にも限界がある。自分を客観的に見てくれる人の存在が必要:複数人体制のメリット

・通訳者の人件費は病院の持ち出し

 

  • これからの展望

手話通訳は、より正確で迅速な診察ができるので、患者さんだけでなく医療者も必要としています。しかし、病院経営としては手話通訳のための財源がなくデメリットであるのが現状です。

設置財源のために、医療秘書(医師事務作業補助者)を参考に、手話通訳を施設基準の中に入れることが必要だと考えます。手話通訳を設置することで医療者の働き方改革や病院の健康経営につながります。

また、病院の質改善のためのツールである病院機能評価には、医療弱者に対する観点があます。この観点からも手話通訳設置を進めるべきだと考えます。手話通訳も医療チームの一員です。

 

市立札幌病院には、片言ですが手話ができるスタッフが増え、患者さんが非常に喜んでくださるそうです。濱野氏はある患者さんに「決して上手とは言えない手話でも嬉しいですか」と尋ねたそうです。その患者さんの答えは「聞こえない私たちは、「知らなくていい」とか「後で」とか、蔑ろにされた経験を持っています。少しでも手話を覚えてくれることは、聞こえない人をそのまま受け入れてくれるということ。それが嬉しい。」

 

正しく患者さんと医療者との架け橋である濱野氏の姿。医療通訳者がより活躍できるように改善され、そして、素敵な病院が増えることを願わずにはいられません。


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【イベントレポート】『2019 医療通訳シンポジウム in 川崎』(11/17開催) (詳細版:その2)

この記事のリンク | カテゴリ: 医療手話通訳, 新着情報, 講演・セミナー実施報告
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