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【イベントレポート】『2019 医療通訳シンポジウム in 川崎』(11/17開催) (詳細版:その2)


【イベントレポート】『2019 医療通訳シンポジウム in 川崎』(11/17開催) (詳細版:その1)

本ページは、上記の続きの詳細レポートです。


【講演② 鹿児島市立病院の取組み ~院内手話通訳として~】

講師:山口龍子氏

鹿児島市立病院 専任手話通訳者

講演2の様子 「鹿児島市立病院の取り組み -院内手話通訳として-」 講師:山口龍子氏(聴者、手話通訳士、社会福祉士)

2つ目の講演では、鹿児島市立病院の山口龍子氏から、鹿児島市立病院の取組みについてです。山口氏は手話通訳士だけでなく、社会福祉士の資格もお持ちです。山口氏からは、以下についてご講義いただきました。

 

topic1.院内手話通訳設置の経緯

topic2.手話通訳設置のメリットデメリット

topic3.山口氏が取り組んできた院内連携

topic4.社会福祉士の視点からみた、手話通訳の専門性

topic5.手話通訳の医療専門性に対する展望

topic6.山口氏の原点、その想い

 

鹿児島市立病院は、病床数574床、診療科目28科の地域の中核的医療機関です。現在山口氏は、平日8:30-17:15、1名体制で勤務しています。が、手話通訳設置に至るまでの経緯はなかなかに急な話だったようです。もともと、鹿児島市聴覚障害者協会から鹿児島市へ働きかけがあったそうですが、1年足らずの聞き取り調査を経て設置が決定、それも、病院への直接雇用ではなく、派遣会社に入社し、そこから派遣、委託業務という形でのスタートであったとのこと。山口氏からは、院内通訳設置におけるメリットデメリットとして、以下を共有いただきました。

 

  • 院内常駐だからこそ生じるメリット

・初回依頼がしやすい

・病院職員としての継続的な支援や連携が可能

・入院患者さん同士の交流(雑談や情報交流)への仲立ちができる

などがあります。

 

  • 一人体制だからこそ生じるデメリット

・通訳者の思い込みで通訳をしてしまうリスクがある

・手話表出技術の確認や事例検討がしにくい

・通訳者が休みの日の患者対応が困難

 

  • 雇用環境に対するデメリット

・雇用費が全て病院負担になってしまう

・派遣会社社員として業務委託を受けているので、採用・雇用条件に変更が生じた場合、病院勤務を継続できない可能性がある

 

しかし、通訳設置により「きこえない」という障害に対しての院内理解は進み、

・医事課へのFAX設置

・「わたしの提言」として院内TVの字幕表記

・聴覚障がい者分の調剤を院内処方する(門前薬局までは同行可)

という目に見える形での環境改善だけではなく、

・院内手話教室(現在行えていない)やクラーク向け手話研修(不定期)の研修

・入院患者への病棟訪問やカンファレンス参加

・院内書類への「手話通訳利用」の可視化

・日常生活の情報保障としても利用可能な手話カード作成

など、院内に留まらない取り組みで、ろう者の医療サービスの一助となっているようでした。

 

山口氏からは、

「『きこえない』、ということは見た目ではわかりにくい障がい。問題自体が見えにくく、それをどう通訳するか?となった時に、聞こえたままの通訳で良いというわけではない」

「海外の人に、文化の違いに対して配慮するように、『きこえない』方の文化、価値観に対して配慮する、ということが大切だ」

と、緩和ケア患者や在宅療養患者との関わりを通じた事例も踏まえながらのお話しがありました。

 

『きこえない』文化に配慮すること。

それはつまり、手話通訳というサービスがそこにあること、手話通訳者がそこにいることが大切だという意識を広め、患者ニーズを明確に提示することだと山口氏は考えています。今後の通訳士の未来のため、顧客中心の通訳サービスの永続性と利潤の確保の方法を検討することが求められています。そこには、手話は音声言語と同じ、意思疎通のためのひとつのツール。知らないから、できないから、で終わらせるのではなく、医療機関に限らず少しでも多くの手話を学ぶ場があると良いと思う、という山口氏の想いがこもっていました。


【講演③ 国立国際医療研究センター病院 国際診療部の取り組み】

講師:小山内泰代氏

国立国際医療研究センター病院 看護部第2外来副看護師長

国際診療部 医療コーディネーター

講演3の様子 「国立国際医療研究センター病院国際診療部の取り組み -医療コーディネーターの活動から-」 講師:小山内泰代氏(聴者、看護師、助産師)

 

3つ目の講演では、外国人が増加する昨今、外国人向けの医療通訳の取り組みについて小山内泰代氏にご登壇いただきました。外国人向け医療通訳の観点から、手話の医療通訳を拡げるヒントを探ります。

 

  • 外国人増加と国の政策

訪日外国人は、急増しており2013年に1000万人、2018年には3000万人を超えました。政府はこの先、訪日外国人数を2020年には4000万人、2030年には6000万人に増やすことを目指しています。訪日・在留外国人を増やす国の政策として、観光客・労働者・留学生の増加すること、そして富裕層を日本の先端医療の患者として迎えることを挙げています。

訪日外国人は3ヶ月未満の短期滞在者です。在留外国人は3ヶ月以上の中長期在留者と特別永住者で保険証を取得できます。日本の在留外国人は増加傾向にあり、特に留学生や技能実習生が急増しています。つまり20〜30代の外国人が増えています。国別では、ベトナム人の増加率が高いです。

都道府県別の外国人人口は、東京が1位。国立国際医療研究センター病院の所在する新宿区は、日本一外国人数が多く、今年の新成人の45%が外国人でした。日本に外国人が増えれば外国人を受け入れる病院も必要、医療のグローバル化は避けられません。

 

医療のグローバル化のために、各省庁が政策を打ち出しています。

・厚生労働省

安全・安心の医療の確保のために外国人患者受入医療機関認定制度JMIPで医療機関の体制整備の基準を明示。医療通訳や医療コーディネーターの設置の初期資金を外国人患者受け入れ環境整備事業の助成金として支給。

・観光庁

観光客が困らないように「訪日外国人旅行者受入れ医療機関」の指定。

・経済産業省

質の高い日本の医療を受けていただくことを推進するため「日本国際病院」の認定。

 

  • 外国人患者受入医療機関認定制度 JMIP(ジェイミップ)

JMIPは2012年に設立、翌年認証制度を開始。あくまでも外国人受け入れの機能を評価するもので、医療の質を認証するものではありません。2019年9月時点で67施設が認定されています。

JMIPは、外国人が安心・安全に、質の高い医療サービスを受けることができる体制の構築を目的としています。もちろん国民に対する医療確保が阻害されないことが前提です。3年間続けて認定を受ける必要があります。JMIPの受審要件に第三者機関による認定が含まれており、この第三者機関に講演①②でも話のあった「病院機能評価」が含まれています。この「病院機能評価」を行う日本医療機能評価機構は、国際なISQuaの認定を受けています。つまり病院機能評価で認定された病院は、国際的にも認められていることにもなります。

JMIPの評価基準には、次の5つの項目があります。

1.受け入れ対応、

2.患者サービス(通訳や翻訳、文化に対応した配慮が含まれる)、

3.医療提供の運営、

4.組織体制と管理

5.改善に向けた取り組み

 

  • 国立国際医療研究センター病院 国際診療部の取り組み

国立国際医療研究センター病院は病床数781床、診療科数43の総合病院です。

外国人の初診は月平均400人(全体の12%)、再診は月平均1,265人(全体の4%)、救急は外国人受け入れ都内No.1で、外国人患者の割合は、救急患者全体の10〜17%、産婦人科では全体の7〜20%です。外国人の患者数は年々増加しています。国別の受け入れ数では中国・韓国・ベトナムと続き、新宿区の外国人の人口と比例しています。診療別では、救急の受け入れが最も多く、次に小児科、総合感染症科と続いています。総合感染症科の受診率が高いのは、当院では健康保険証のない外国人は総合感染症科で受け入れているためです。再診で呼吸器科が多くなっているのは、結核が多いことも理由の一つです。

 

国立国際医療研究センター病院の国際診療部の取り組みをJMIPの5つの評価基準に沿って紹介します。

  1. 受け入れ対応

初診受付で基本情報を入手します。本人確認は名前だけでは難しいため、パスポートや在留証で確認しています。初診受付担当者が確認しますが、必要があれば医療通訳や医療コーディネーターが呼ばれます。

健康保険証のない外国人に対しては200%の支払い、訪日して日本の医療を受けたい外国人に対しては300%の支払いとしています。この部分を通訳費用に充てるという考えです。医療費の請求や支払いの対応として、英語版の請求書・領収書を準備しています。国によって医療制度は異なるので、事前に各治療の費用の概算を患者に説明し、同意を得た上で医療提供をしています。

  1. 患者サービス

通訳は、医療通訳と一般通訳を分けています。診察内容を伝えなければならない場合、つまり診察室の中のみ医療通訳者が対応し、検査の案内などは一般通訳者が対応しています。

通訳者の責任範囲を明確にしており、細心の注意を払って通訳をして生じた問題は、通訳者個人の責任にはせず、組織として対応することを決めています。

通訳サービスは、電話医療通訳が17か国語対応、対面医療通訳は4カ国語対応。電話医療通訳は、通訳会社と契約し対応しています。タブレットのアプリや契約会社のビデオ通訳の使用もしています。

薬袋や説明書は英語記載、検査時にはそれぞれの言語で患者が行う動作を記載した指差しカードを用いて円滑に対応できるようにしています。院内の表示(避難経路など)も英語・中国語などを併記しています。宗教や習慣に配慮し、食事は一部ハラル対応し、そして、祈祷室も準備しています。

  1. 医療提供の運営

使用頻度の高い文書については翻訳版を準備しています。厚生労働省が多言語での説明資料文書を公開しているので参考にし、当院用にアレンジした文書もあります。

  1. 組織体制と管理

外国人患者が必要とする医療サービスを適切に提供すること、外国人患者の診療・看護にあたるスタッフが必要なサポートを得られるようにすることをミッションに2015年4月、国際診療部がスタートしました。

 

・国際診療部

医師(部長)1名、医師2名、医療コーディネーター兼英語通訳3名、医療通訳 中国語3名、ベトナム語2名、ネパール語2名で構成しています。医師・医療コーディネーターは常勤ですが、医療通訳は常勤職にすることが難しく、現在は非常勤です。

医療通訳の配置は医療コーディネーターが行い、医療通訳が対応で困った場合は医療コーディネーターが入り、医師や他部門と調整しています。

医療コーディネーター・医療通訳は厚生労働省のインバウンド政策に掲げられている「外国人が安心安全に日本の医療サービス受けられる体制の充実」の目的に則り、厚生労働省の補助金を使用し設置しました。2020年までに外国人受け入れ体制が整備された機関を5倍にあたる100箇所設置の目標を、2017年に前倒しで体制整備が行われました。現在は地域の実情を踏まえながら、外国人患者の受け入れ体制の拡充を目指していますが、外国人は都市部だけではなく地方でも増えており、拠点病院の受け入れだけでは限界である一方で、医療通訳を全ての病院に配置も難しいのが現状です。

国立国際医療センター病院においては、健康保険証のない患者が受診した場合、高めの費用を設定しているので、そこから通訳費用を捻出している状況です。厚生労働省から、診療報酬とは別に医療通訳に関しては通訳費用を上乗せ可能と通達が出ていますが、手話通訳と同様に、通訳の必要な患者から費用を取ることは難しく、そして、患者から通訳不要と言われた時点で安全な医療提供が難しくなります。

 

医療コーディネーターの役割

外国人患者がスムーズに受診できること、病院スタッフが安心して医療提供できるようにサポートすることを意識しています。以下が主な役割です。

 

・初診に来た時点で、受診科の調整

医師の診断よる治療方針に基づき、患者が医療保険の有無、日本に滞在できる期間などを考慮して治療計画を作成。医師と相談しつつ患者に提案。

 

・概算額の提示

各治療に対しての費用や、今治療が必要なのか、もしくは帰国してから治療できるのかを含めて提示。

 

・治療計画の共有

治療計画を患者と共有。必要があれば母国の家族もしくは保険会社と共有など外部との調整を実施。

 

・ビザ取得の支援

ビザが切れている場合、入管とビザの延長の調整。

 

・インフォームドコンセント時の理解と調整

複雑なケースや難しい医療用語がある場合には、医療コーディネーターが医師と通訳、医師と患者の間に入り平易な言葉に置き換え、理解の促進と調整を行う。通訳任せにはせず、医療コーディネーターが間に入ることで、通訳の負荷軽減。

 

・入院支援・退院支援

患者が緊急搬送そして手術することで医療費用が1000万円を超えることもある。そのような場合に、どうやって患者を母国に帰すのか、航空会社に相談したり、緊急医療搬送チームに相談したりし、帰国調整を実施。

 

・支払いの調整(保険会社との調整)

保険会社との調整が重要。高額医療になる場合、初めから医療費概算を家族にも説明しながら、最終的な支払いへと結びつける。会計担当等と連携し、調整する。

 

文化の違いから起こる患者からの疑問に医療コーディネーター及び通訳は答え、解決していく。患者が安心して治療できるように、医療者が安心して医療を提供できるように、ホリスティックな支援を常に意識しています。

 

  1. 改善に向けた取り組み

日本人の満足度調査を実施していますが、現在アンケートを英語と中国語、ベトナム語、ネパール語に翻訳し、外国人の患者満足度を確認しています。「ご意見箱」も設置し、日々改善に向けて努力していいます。新しい問題が毎日起き、改善の日々です。少しでも外国人の患者が日本に来て良かったと思っていただけるように取り組んでいます。そして、この内容が医療手話通訳の設置に向けてお役に立てば嬉しいです。

 

医療通訳の中でも一歩先をいく外国語通訳。医療コーディネーターがしっかりサポートし、患者も通訳者も安心できる体制を整えているのが印象的でした。会場からも手話通訳設置のヒントを得流ために質問が活発にされていました。

この記事のリンク | カテゴリ: 医療手話通訳, 新着情報, 講演・セミナー実施報告
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