【イベントレポート】『家族をみんなでカンガエルー』イベント(7/28開催) (詳細版)
NPOインフォメーションギャップバスター(IGB)の【家族をみんなでカンガエルー】キックオフミーティングが2019年7月28日に行われました。
コミュニケーションバリアを扱う団体として、家族を扱った初めての企画でしたが、参加者小学生から80代までの聞こえない立場・聞こえる立場の家族の方々(親・祖父母、きょうだい、子ども)、聴覚障害、手話、情報保障などに関わる方々、医療、教育、福祉等の分野の専門家の方々など60名程の方が来てくださり、参加者には、感謝です。
写真は左から(左端は手話通訳者、右の画面は修正付き音声認識)
- 藤木和子(IGB理事、聞こえないきょうだいをもつSODAソーダの会代表、弁護士)
- 南村洋子先生(聞こえる親、大塚ろう学校講師)
- 村下佳秀さん(聞こえる子どもCODAコーダ、J-CODA元代表、社会福祉士)
- 丸田健太郎さん(聞こえるきょうだいSODAソーダ、大学院生)
- 小谷野依久さん(聴覚障害当事者、会社員)
- 伊藤芳浩(IGB理事長、聴覚障害当事者、会社員)
※SODA、CODA等の語句については下記に説明がありますので、ご覧ください。
また、「カンガエルー」のネーミングやイメージ(画)も好評だったようで嬉しく思います。皆さんなら「カンガエルー」をどのような表情で声や手話で表現されますか?
(参考)【イベントのお知らせ(7/28)】『家族をみんなでカンガエルー』イベント
https://www.infogapbuster.org/?p=3034
当日のレポート
あいさつ
IGB理事長 伊藤芳浩(聴覚障害当事者)「学校や社会でのコミュニケーションバリアの課題の前に、家族でのコミュニケーションバリアの課題があります。
家族みんなでカンガエルーキックオフ、ついにボールが蹴られました。」
企画担当者・IGB理事 藤木和子(聞こえるきょうだいSODA)より趣旨と語句の説明
「この時間は、聞こえる人も聞こえない人も、家族の人も家族でない人も、それぞれが言いたいことを自由に発言(攻防!?)できる時間に。大人の経験を次世代や未来につなげていくという共通のゴールを目標にしたいと思います。」
【“聞こえる家族”の名称についての説明】
名称・語句等の詳細は、聞こえないきょうだいをもつSODAの会ホームページをご参照ください。
https://soda-siblings.jimdofree.com/
IGBインターンより
記伊実香(IGBインターン、聴覚障害当事者、会社員):自分の立場からみた家族について
山下綾香(IGBインターン、聴者、大学の手話サークル代表):手話サークルでの聞こえる学生と聞こえない学生の関係について
⇒IGBのインターンの2人は最後に感想も書いてもらっていますのでぜひご覧ください。
参加者より
SODAの会に参加している子どもたちから会に参加しての感想と変化(聞こえるきょうだいSODA)
自分の気持ちを家族に対して正直に言えるようになって楽になった。自分が通訳をしないと言ったら、家族全体が直接コミュニケーションを取るように変わった。また、聞こえない兄弟姉妹のことも前よりも理解できるようになった。今までは自分が我慢して終わっていたこともケンカするようになって、ケンカは増えたけれど、対等な良い関係に変わったと思う。
斉藤りえさん(聴覚障害当事者、前東京都北区会議員)
聞こえない親の立場からCODAである聞こえるお子さんとのこと(娘の本当の気持ちを知りたい)、妹としての立場からSODAであるお兄さんのこと、そして、聴覚障害者に対する社会への思いについて。
パネルディスカッション・参加者とのやりとり(抜粋)
- 家族間の些細なコミュニケーションであっても、その情報が些細であることの判断を聞こえる家族間で無意識にしてしまい、伝えないことがよくある。それが積み重なり、大きなギャップ(溝)、爆発として現れる。
⇒まさに家庭内のコミュニケーションバリアの課題。今後さらに事例を集めて深め、解決を考えていく必要。
⇒家族の段階として、①幼少期(親、子ども同士)、②大人になって独立して以降(大人同士)、③自分の家族を持って以降(親と子どもの関係)の段階がある。①の幼少期(親、子ども同士)が②、③に影響を及ぼす。
⇒聞こえる親であり、ろう学校で乳幼児相談を担当している南村先生から自己の経験と反省を踏まえて、わかり合えるコミュニケーション、手話の重要さについてのお話。わかり合えるコミュニケーションの共有という課題とコミュニケーション手段の自由選択、自主性の課題をどう解決していくかが今後の大きな課題。
- SODA・CODAとしてのレッテル、手話ができて当たり前、聞こえない親やきょうだいの間に立って“通訳”(手話だけでなく口話や表情、身振りなどでの通訳を含む)やアシスト役となって当たり前、を感じることがある。
⇒聞こえても、聞こえなくても、家族の中で、自分をひとりの子ども、個人としてしっかり見てほしい。コミュニケーション手段を強制しないで本人の自由選択肢を与えること、コミュニケーション支援を強制したり過度に期待したりしないで自主性に任せることが重要。
⇒親や家族以外の人が(聞こえない子どもに対しても、SODA・CODAに対しても)「大変だね」と同情したり、「えらいね」「頑張ってるね」などと過度にほめないことも重要。
⇒「カンガエルー」は、「コミュニケーションバリア」という相手に対して、一緒にチームを組み、それぞれがお互いにパスを送り合ってアシストもする、シュートもする、というイメージです(時には、味方同士で攻防するのも自殺点もあり)。
- 「聞こえなくてごめんね」は言ってほしくない。
⇒特に、参加者の聞こえない親の立場の方から反響の大きかった部分。聞こえるCODAのお子さんに「ごめんね」ではなく「ありがとう」というようにしたら関係が良くなったとの感想をいただきました。
総括(企画担当者・IGB理事 藤木和子)
今回はキックオフということで,今後の方向性を探るための回となりました。聞こえるきょうだいのSODA(ソーダ)の立場として、一緒に活動している聴覚障害当事者(デフ)の友人と、「お互い自由に一緒に話そう」、「話せば何か解決の糸口が見つかる」、「大人の失敗経験も成功経験も次世代、未来につなげたい」と、やや楽観的な勇み足で企画しましたが・・・、家族内のコミュニケーションバリアという課題がある、と改めて認識できたことが大きな収穫だったと思います。
大人になった者同士の関係にも課題はありますが、スタートであるお互いにほとんど記憶にない子ども同士の幼少期、自分の家族を持って以降については本当に難しい課題です。だからこそ「みんなでカンガエルー」の意義、挑みがいがあります。
今後は、以下のような点の議論を深めていけたらと考えています。
- 家族内のコミュニケーションバリアをどう打破していくか?家族内の望ましいコミュニケーション環境とは何か?①幼少期(親、子ども同士)、②大人になって独立して以降(大人同士)、③自分の家族を持って以降(親と子どもの関係)
- 家族内での重大イベントに向けてどうコミュニケーションして行くべきか?(進路・職業選択、独立、結婚、出産、子育て、病気や怪我、介護、葬式、遺産相続など)
蹴られたボールがどこへ行くのか、どう広がっていくのかを楽しみにしています。
IGBインターンの感想
IGBインターン・記伊実香、聴覚障害当事者
家族の問題には正解は無いと思います。また、それぞれの家族の問題には、それぞれの「こうしたらよいかもしれない」があるのだろうとも思います。
それでも「うち」の家族について、「そと」に向けて話してみないと、そもそも何がどうなのか,問題の形すら見えてこない
…そのようなものなのだと考えます。だからこそ、このようなイベントにて、 同じような気持ちを抱えている人に話してみたり、相手の話も聞いてみたりする中で、どうしたらよいかをみんなで「カンガエルー」する。
そんな時間を持ち続けることが、何よりも大切なのかもしれない。そのようなことを思いながら帰路につきました。
IGBインターン・山下綾香、聴者
パネリストの方々に共通する思いは「個人を個人としてしっかり見てほしい」ということでないかと思います。家庭内で、“個人”を“役割”のように見る、例えば“手話のできる子ども”をその面でしか評価しないなど、そのように見ていては、“子ども自身”を見るということにはなっていません。周りからのプレッシャーなどで生きづらい状況を生んでしまっては、自己肯定感は育まれないと思います。“聞こえる”、“聞こえない”も同じです。本人を個別化し、ひとりひとりの意思を尊重していく姿勢は、家族内でも、学校・社会でも、共通認識にしていく必要があると思います。
悩みは、悩む人の数だけありますが、自分に近い立場の人に出会うことで、普段は話しにくいような意見を言い、思いを共有し、他の人の経験も知ることができます。それが、違った角度の視点からの発見、生き抜いていく上でのヒント、心理的な孤立の防止や居場所に繋がると思います。
「カンガエルー」の活動をより多くの人に知っていただき、より多くの人々を巻き込んでいく必要を感じました。
お礼と今後に向けてのお願い
登壇、参加していただいた皆さま、レポートをお読みくださった皆様、ありがとうございました。今後も、聞こえる立場と聞こえない立場の家族(親・祖父母、きょうだい、子ども)、友人、聴覚障害、手話、情報保障などに関わる方々、医療、教育、福祉等の専門家の方々など、さまざまな立場の方々との連携を深め、家族の中でのコミュニケーションバリアの解消のために引き続き頑張って行きたいと思います。
家族のコミュニケーションバリアを工夫し、より良くしていくためのご感想やご意見、共同企画のご提案などがありましたら、ぜひIGBまでご連絡ください。どうぞよろしくお願いいたします。
NPO法人インフォメーションギャップバスター(IGB)
(文責:IGB理事 藤木和子、協力:IGB理事長 伊藤芳浩、IGBインターン 記伊実香、山下綾香)