「電話があたりまえに使えるくらしをすべての人に」パンフレット製作者インタビュー
電話があたりまえに使えない現状を変えたい
NPO法人インフォメーションギャップバスター(以降、IGBと称する)のメンバは日本財団が実験的に提供している電話リレーサービスを仕事やプライベートなどで利用してみて、便利で必要なものであること感じました。しかしながら、今の日本では、電話リレーサービスは、日本財団が実験的に提供しており、利用者数・利用可能時間などに制約があり、十分に普及していません。また、電信通信会社がすべての人が等しく電話を使えるようにしていません。
すでに、法律などで電信通信会社が電話リレーサービスを義務付けている欧米諸国と比べると遅れていると言わざるをえない状態です。そのような現状を憂慮して、電話リレーサービスのさらなる普及をを政府主導で実現してもらうために、総務省へ要望を出すための署名を集めることにしました。本パンフレットは電話リレーサービスはなぜ必要なのか、どのようなものなのかを漫画などをまじえてわかりやすく解説するものです。
今回、パンフレット製作を依頼した山花典之さん(漫画家)、中澤綾さん(デザイナー)、荒井正博さん(コピーライター)に、製作してみて感じたことを語っていただきました。
電話をかけられないことはとても不便であることに気づいた
電話リレーサービスのことをはじめて聞いたと思いますが、どのように感じましたか。
山花:ろう者の方々が、 電話をかけられないという当たり前の事実に、改めて気付かされました。私達、健聴者は何の躊躇もなく、自分のタイミングで、自分のかけたい時に電話をかけているのですが、それが出来ないということが、どれだけ不自由なことであるかということを、理解出来ました。この差は大きなと思いました。
中澤:聴覚障害者が身近にいないので、電話ができないということ、正直あまり考えたことがありませんでした。今回、そういう人は多いということをはじめて知りました。電話リレーサービスは、聴覚障害者の生活の質を向上させるという意味では、とてもいいサービスですが、まだまだ世間一般に知られていないのがとても残念です。今回、デザイナーとして知名度向上に貢献することができて大変嬉しく思います。
荒井:正直な話をすると、はじめて電話リレーサービスについて聞いた時には、単に「そんなサービスあるんだな」くらいの感想で止まっていました。「メール じゃダメなの?」とも思いましたね。おそらく多くの方も自分と同じような感想を持たれるんじゃないかと思います。逆に言うと、今回の小冊子の制作にあたって、その自分の率直な感想や疑問がかなり参考になった部分もあります。今では、電話が使えないことがどれだけ深刻な問題なのか、理解はできたかな、と思います。
なるほど、今回のことではじめて電話が使えないことの不便さ、そして、電話リレーサービスの必要性について知ることができたということですね。
分かりやすく、伝わりやすくし、協力してあげたいと思えるように工夫しました
さて、今回の仕事で一番力を入れた点や工夫した点はどのような点ですか
山花:シナリオにしたものを初めに渡されていて、それを漫画に起こすというのが今回の私の仕事でした。『電話リレーサービス』というサービスのシステムの仕組みを絵でどのようにわかりやすく紹介するか、という点で頭を使いました。
中澤:聴覚障害者の声が、自然とみなさまに伝わる読みものになるように、色・形状・配置などあらゆる点に神経を使いました。特に表紙の目と口などのパーツについては、愛着が湧くように工夫しました。
荒井:表紙の案だしの段階で、署名という行為は「他者への無条件の協力」のようなものであると、考えました。ですので、今回の冊子制作のテーマには「愛のある冊子にする」という裏のコンセプトがあったりします。反応を取るためには煽ったり刺激的な言葉をつかったりと、いろんな方法があるにはあるんですが、 この「愛」というコンセプトに立ち返った時に、それらは使わないようにしよう、という方針になりました。1つ1つの言葉に優しさを持たせることにこだわっているので、読んだ後に読者が自然と「協力してあげたい」と思えるようなストーリーになった(かな?)と思っています。
要望を具体的な形に表現するという過程が一番苦労しました
いろいろ工夫されたのですね。その中でも一番苦労したのはどのような点ですか。
山花:自分の好きなように描いて良い、と言う類の仕事ではなかったので、要望にどれだけ答えて行けるかというところで気を使いました。「ちゃんと相手の意図に沿って描けているのかな?」と言う点に注意して作業を進めさせていただいたつもりです。
中澤:「音」や「耳の聞こえない人」をどうイラストにすればいいのか、どうしたら分かりやすく伝えられるのか、考えさせられました。
荒井:表紙の案だしが最も苦労しました。興味を持ってもらうためには、ある程度のエンターテイメント性がなければならない。ただし、エンターテイメント性を入れ過ぎると、署名にはつながらないのではないか…など、デザイナーと何度も議論しました。最終的に出来上がった表紙は、コピーもビジュアルも納得がいくものになり、本当にいいものがつくれたなと感じています。額縁にいれて飾りたいくらいです(笑)
知らなかったことを知ることができて勉強になりました
今回の仕事をしてみてどのようなことを感じましたか。
山花:今回のこのお仕事を通して感じた事は、耳にハンディがある方や、その他、身体のある部分にハンディを持っている方達が不自由している事が、他にもたくさんあるのだろうなと考えさせられた事です。私たちが普段、自由に、何気なく、当たり前に受けている、または使っているサービスや便利なツールを、自由に使うことが出来ない方がたくさんいるという事に気づかされました。もっと普段から周囲に気を配っていかなければいけないなと…。また、こういうサービスがあることも新鮮な発見でしたし、自分も一度電話リレーサービスを、(必要ないですけれども)ちょっと使ってみたいかな?とは好奇心で思いました。
中澤:一緒に仕事をしてみて感じたことは、私たちの感覚と耳にハンディがある方では、どうやら違うようだということです。例えば、火災報知器などはあたりまえのように音がするものと思い、聞こえなくて困るという例として用いたのですが、音が出るものという意識がない人もいるというのは非常に驚くとともに新鮮さを感じました。目に頼って生きている人とそうでない人では、物の見方や捉え方が違うのだなあと思いました。
荒井:伊藤さんの話を聞けば聞くほど、「自分の知らないところでこんなにたくさんの人が困っていたんだな…」と、本当に驚きました。僕の場合はこの仕事を 通じて現状を知ることができたんですけど、大多数の人は最初の僕のように、困っている人がいることも知らない人がほとんどで、特別なきっかけでもない限り問題意識を持つこともないんじゃないかなと感じています。だからこそ今回の冊子のように、たくさんの人に興味を持ってもらうためのアクションは必ず誰かが とらなければならないなと、強く思いました。今回の仕事を通してそのアクションに加担できて、本当に良かったと思っています。
最後に何か一言あればお願いします。
山花:耳にハンディを持っている方達が、このような不自由があるということ、そしてこんな便利なサービスがあるということを、耳が聞こえる人も、耳にハンディがある人も、お互いに知っておくということが大事なのではないかと思いました。また、私たちの周りにも身体にハンディ持っている方は身近にいますので、それに気を配ること。「何か困っていること、不自由なことありませんか?」 とこまめに声を掛けると言うことは大切なことだなと、感じました。ぜひとも署名にご協力いただけますように、よろしくお願いいたします。
中澤:まずは、何事も知ってもらうということが大切なので、この冊子がその第一歩となればいいなと思います。
荒井:とにかく、ぜひ署名をお願いします。今回の仕事を通して驚いたことの1つが、「たった1人の署名でも、その効果は想像以上に大きい」ということです。1人の署名が100人を助けるきっかけになるので、ぜひ家族や友人にも教えてあげてください。