日本航空(JAL)はどのように「遠隔手話通訳サービス」を開始したのか
コールセンター型電話リレーサービス・遠隔通訳サービス導入事例のご紹介
▼プレスリリース:遠隔手話通訳サービスを開始 http://press.jal.co.jp/ja/release/201812/004991.html ▼JAL遠隔手話通訳サービス https://shur.jp/jal_support/ |
2018年12月11日から、日本航空(以下、JAL)にて、「遠隔手話通訳サービス」が始まりました。JALが提供する「遠隔手話通訳サービス」の内容は、大きく2つに分けられます。JALプラザなどのカウンターで、問い合わせや手続きをするために利用する(従来の)遠隔手話通訳サービスと、ビデオ通話(Skype)にてJALコールセンターに直接問合せができるコールセンター型電話リレーサービスです。どちらも手話オペレーターを介します。これまでどおりのメールやFAX、筆談に加え、手話でも問い合わせができるようになりました。
本サービスの導入には、㈱JALサンライト勤務の加藤慶子さん(ろう者)が関わっていました。NPO法人インフォメーションギャップバスター(以下、IGB)は、その舞台裏について詳しくお話を伺いました。
【インタビュー登場人物】
- 加藤慶子さん:ろう者。(株)JALサンライト 財務セクション リーダー。サービスの導入検討からサービスインまでのプロセスに当事者として参加。趣味、旅行とグルメ。担当業務に留まらず、多岐にわたり自ら提案し活動している。
- 棚橋直樹さん:聴者。(株)JALサンライト 総務部長、加藤慶子さんの上司。手話学習に奮闘中。
- 中丸亜珠香さん:聴者。日本航空㈱ 商品・サービス企画本部 業務部 業務グループ アシスタントマネジャー、遠隔手話通訳サービス導入担当者。
- IGB:ろう者。電話リレーサービスに関心がある。趣味は2か月に1回の旅行。
IGB:本日は、遠隔手話通訳サービスの開始にあたり、様々な角度からお話を伺いたいと思います。よろしくお願いします。
加藤慶子(ろう者、(株)JALサンライト。以下、加藤):はじめまして。JALサンライト総務部で経理を担当しています、加藤慶子と申します。よろしくお願いいたします。
棚橋直樹(聴者、(株)JALサンライト。以下、棚橋):JALサンライトの棚橋と申します。加藤から日々、手話の特訓を受けて奮闘中です。手話はイマジネーションと立体認識の能力を問われる、とても楽しく、そして難しい言語だと感じています。よろしくお願いいたします。
中丸亜珠香(聴者、日本航空(株)、以下、中丸):中丸です。遠隔手話通訳サービス導入を担当いたしました。よろしくお願いいたします。
IGB:私は趣味が旅行なのですが、たとえばネットで飛行機の予約ができても、乳幼児連れの座席手配やアレルギー対応の機内食の手配などを伝えたいときに電話ができず、困った経験があります。今回、「遠隔手話通訳サービス」が始まったので、利用してみたいと思っています。
加藤:そう言っていただけで、私もうれしく思います。
IGB:加藤さん、この「遠隔手話通訳サービス」はどのような経緯で導入にいたったのでしょうか?
加藤:以前、初めて遠隔手話通訳のサービスを経験したときに、筆談より情報を細かく得られることに感動しました。自分の会社でも同じサービスを導入できればいいなと常日頃から思っていました。
IGB:出発点は、加藤さんが遠隔手話通訳サービスを体験したときの感動なのですね。
加藤:JALでは全社的にアクセシビリティの向上に取り組んでいるのですが、あるとき、社員へのヒアリングがありました。このときに、遠隔手話通訳サービスをJALでも実現したいという強い思いを伝えました。
IGB:日ごろから考えていたからこそ、提案することができたのですね。
加藤:はい、そう思います。今までJALに問い合わせをする手段がFAX、メールに限られることで、細かなご要望などは当日空港で手話か筆談で確認をするしかないと考えるお客さまもいらっしゃったことと思います。もし、JALの遠隔手話通訳サービスをご利用いただけるようになれば、当日まで不安な気持ちを抱え込まずに安心して空港にお越しいただけるのではないか、と思いました。
IGB:加藤さん自身もろう者だからこそ、問合せをあきらめたろう者のお客さまが、不安な気持ちで空港に来るということをずっと気にかけていらしたのでしょう。棚橋さん、中丸さんにお伺いします。加藤さんが本サービスを提案したとき、どのように思いましたでしょうか?
棚橋:加藤は普段から、ろう者視点での日本航空のお客さまサービスについて、高い関心と自分なりのしっかりした考えを持っています。それを私にもよく共有してくれていましたので、提案を聞いたときはぜひ実現したいと考えました。
中丸: JALでは、これまでも1994年に他社に先駆けて専門の窓口プライオリティ・ゲストセンターを開設するなど、アクセシビリティの向上に努めてまいりました。しかしながら、最新のツールの導入などは他社と比べて遅れていた部分もあります。そのため、お客さまが本当に望まれていることは何なのか、改めて社員にヒアリングをいたしました。加藤さんの熱意は強く、遠隔手話通訳サービスの必要性がひしひしと伝わってまいりました。
IGB:本サービスをはじめるにあたって、苦労したことや、よい効果はございましたでしょうか?
加藤:導入に向け、接続テストを数日間かけて行ったときのことです。私はお客さま役を担当したのですが、住所や電話番号など難しい漢字や数字等は、伝えるのに時間がかかることに気がつきました。伝えたいことは前もって紙に書くよう準備して画面に映し、手話オペレーターに読み取ってもらうなど、工夫しながら対応しました。これからご利用される方には、伝えたいことを前もって紙に書いておくことをおすすめします。
棚橋:いよいよという段階で、サービスを受けるお客さまとしての視点で協力してほしいとの要請があり、提案者の加藤にもサポートを頼みました。どうすれば限られた時間を有効に使って検証のサポートができるかを考えていたようです。その経験が、チームでの仕事のやり方へも良い影響がでていると思います。
中丸:JALの遠隔手話通訳サービスは、JALグループ全てのコールセンターが対象となっております。そのため、調整の内容が多岐にわたり、導入まで時間がかかってしまいました。しかし、JALグループのどのコールセンターであっても遠隔手話通訳サービスが利用できる、そういった状況がお客さまにとって望ましい姿だと考えたため、問題があっても、あきらめることなく皆で協力しあいながら解決し、導入まで進めてまいりました。
IGB:遠隔手話通訳サービスが導入されてからの社内の反応はいかがでしたでしょうか?
加藤:「ようやく導入されたね!素晴らしい!」と言葉をいただきました。
棚橋:社内通知やJALのホームページで発表を見たときは、自分のことのようにうれしかったです。
中丸:サービスインした最初の月は、1本も電話がかかって来ないのではないか、と心配しておりました。しかしながら、導入当初から順調にご利用いただいている状況で、お客さまの利便性が高まったことを実感しております。また、社内でも、遠隔手話通訳サービスを使えば、手話や筆談だけでお伝えしていた時よりもスムーズにより細かいニュアンスまでお伝えできると、好評です。
IGB:常に新鮮で感動していただく価値を実現するために、全社員一丸となって挑戦を続ける秘訣が伝わってきました。当事者の社員からの提案が、マイノリティのお客さまに対するサービスの導入につながった背景には、ダイバーシティの考えがあったのではないでしょうか。
棚橋:JALサンライトはJALの特例子会社です。これまでJALの総務間接部門を中心に業務を担ってきましたが、障がいがある社員が多く在籍していることで多様性の尊重を実現している会社として、JALサンライトならではのJALへの貢献ができる新しい形ができたようにも感じました。
中丸:JALグループでは「誰もが旅、スポーツ、文化を楽しむことができる社会の実現」をめざし、アクセシビリティの向上に取り組んでいます。そのためには社員一人一人が多様性を受け入れる、インクルージョンのマインドを持つことも大切です。お客さまやそのニーズが多様化しているなか、そのニーズを把握し、よりよい商品・サービスをご提供していくことがますます重要になってくると思いますが、その原動力となるのが、ダイバーシティ&インクルージョンだと考えています。
IGB:ありがとうございます。最後に遠隔手話通訳サービス提案者の加藤さん、これから自分が働く会社に電話リレーサービスを提案したいと考えているろう者に、アドバイスをお願いします。
加藤:思いは必ず伝わります。行動に移すことが大切です。まずは自分を信じて。どうせ無理だと決めつけず、勇気を出して「思い」を伝えてください。具体的には、自分の気持ちだけでなく、周りの人たちはどう思っているのかの情報を集める。それから、お客さまが喜ぶ姿をイメージする。同じ気持ちを持っている人たちを見つければ、進めやすいと思います。最後に、理解者の力が必要です。頑張ってください!応援しています。
IGB:本日は貴重なお話を伺うことができました。JALの取組みについては、ユニバーサルツーリズムやミライスピーカーなど、常に身軽に世界に先駆けてチャレンジしている印象を持っていましたが、その舞台裏では社員同士が強い思いを持ち、多くの対話を重ねているのですね。お忙しい中、誠にありがとうございました。