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Information Gap Buster 特定非営利活動法人

12月イベント報告「障害者にとって暮らしやすい情報社会とは(2)」


前回、大好評だったイベントの続編として、開催した「障害者にとって暮らしやすい情報社会とは(2)」は大盛況のうちに幕を閉じました。

NPOインフォメーションギャップバスター(IGB)は、情報バリアフリーを推進する非営利団体です。当団体は、障害の種類や障害の有無に関係なく、すべての方に情報バリアはあると考えています。つまり、聴覚障害者だけの問題でないと考えています。
そのような背景があり、今回は、発達障害(東京大学先端科学技術研究センター 特任研究員 綾屋紗月先生)、脳性まひ(東京大学先端科学技術研究センター 准教授 熊谷 晋一郎先生)の立場からパネラーをお招きし、お話をしていただきました。
以下にダイジェストを掲載します。


【発達障害の立場から見た情報バリアについて:綾屋紗月先生】

・自閉症スペクトラム/アスペルガー症候群:診断基準:社会性やコミュニケーションの障害/こだわりが強い
・当事者研究:困りごとを抱えた本人が自分のことを仲間と一緒に研究するもの
・綾屋個人の身体的特徴
①まとめあげがゆっくり。身体内外からの情報を細かくたくさん受け取るため、これらを意味や行動にまとめあげるのに時間がかかる。
②うまく読めない:英字だとアルファベットよりも細かいパーツ毎にみてしまう。識字障害の子供たちが読みやすいとされているComic Sansという不揃いな書体だと綾屋も読みやすくなる。
③うまく聞こえない:自分の声と他の音(反響音・物音・話し声等)が一緒になり意味がとれなくなる。
④うまく話せない:うまく聞こえないので振動を感じ取ろうとして押しつぶしたような発声になる/発声の運動調整にかかりきりになって思考しながら話すことが難しい。
・コミュニケーション障害は人と人との間にあるコミュニケーション障害は個人に押し付けられるものではない。多数派のコミュニケーションデザインに当てはまる身体的特徴を持った人たち(=多数派)と、それには当てはまらない身体的特徴を持った人たち(少数派)との間に、すれ違い現象としてのコミュニケーション障害が生じると考える。
・障害を2段階にわけて考える
1. 標準から外れた身体的特徴:例:聞こえない(聴覚障害)、うまく動けない/話せない(脳性麻痺)、 感覚や運動をうまく統合できない(感覚運動統合障害)など
2. 標準から外れた身体的特徴を以って多数派のデザインした市民活動や社会参加をする際に生じる障壁
・マカトン:手話をベースとして生み出されたサイン(手指による動作表現)とシンボル(イラスト)、および音声言語を同時に使用する言語指導方法(同時提示法)。マカトンの実践は綾屋以外にも「聞こえるけれど手話があると便利」という人たちがいることを示している。発達障害者にとって使いやすい手話について考えていきたい。
・会議中や会議の後に「意味づけ介助(推測の共有、ルールからの逸脱の解説)」があると助かる。
・マルチモーダルな情報保障(記号表現における複数感覚の同期的な提示)が綾屋には効果が高い。

 


【運動障害の立場から見た情報バリア:熊谷 晋一郎先生】

・従来は、情報バリアは運動障害というより感覚障害の人が中心。
・インプットは感覚障害のエリアだと考えられ分けられていた。しかし実際は、運動と感覚は密に関係している。例えば読書には、ページをめくる運動や眼球を動かす運動が伴う。感覚を通じて情報をとるとき、そこには運動が伴う。ゆえに、運動障害が原因で情報を得られないことがある。ページをめくるのも、キーボードを操作してインターネットで情報を得るのも大変。以上は、障害を補うインターフェースの問題として、これまで取り上げられてきた問題。
・今日お話ししたいのは、身体を動かさないと習得できない、もっと別のレベルの情報について。例えば、キャンプでどのようにテントを立てるのか。飯盒炊爨の手順はどのようなものか。実験で、試験管をどのように扱うのがコツか、注射器はどのように操作するのか。多くの人が、みようみまね・試行錯誤で学んでいくこうした「動作性知能」とでも呼ぶような水準の情報が得られないことは、社会の中で生きていくうえでしばしばハードルになる。介助者に指示を出してやろうとしても、そもそも自分がコツをわかっていないので、指示が出せない。
・このギャップを超えるためには、指示を出した通りに動くのではなく、試行錯誤に付き合ってくれる介助者の存在がポイント。


【当事者研究の最近の展開:熊谷 晋一郎先生】

・当事者研究の定義について、コンセンサスはまだないが、既存の実践との違いについては、ある程度のことが言えるだろう。医療・リハビリは、当事者の心身を変えようとする実践。当事者運動は、環境の側をよりよく変えようとする実践。しかし、当事者研究には変えようというモチベーションはない。現実(身体と環境の両方)をありのまま知って、共有するというモチベーション。変えるモチベーションと知るモチベーションは、当事者活動の両論である。変えるパラダイムばかりだと、現実に目の前にある状況や体から目をそらすケースもあるし、知ろうとするばかりで変える契機がなければ限界はある。
2012年から当事者研究ネットワーク団体を立ち上げ調査している。60か所くらい団体がある。
・当事者研究の特徴の一つとして、リカバリー(回復)とディスカバリー(発見)とが、コインの表と裏のように、分かちがたく結びついているという面がある。
・精神医学に当事者研究が取り込まれると、単なるリカバリーのツールになってしまう。リカバリーが目的で、ディスカバリーは手段だと思われているが、逆だと思う。
・当事者研究は単なる支援法ではなく、研究による発見が目的。発見の副産物として、回復もついてくるかもね、というくらいの感覚が大切。これを踏み外さないことが大事。発見を優先すべき。
・当事者の語りから、検証可能な仮説を抽出する方法について、これまで4つの方法を試してきた。
1.当事者の書き物をよく読み込みアンケートを行い、そこから有力な仮説を抽出する。
→出版には売れるか売れないかのバイアスがかかる。
2.言いっぱなし、聞きっぱなしという方法で、当事者が集まって語り合う中から仮説を抽出する。
→どのようなファシリテーション技法のもとで、どのようなタイプの人が語りやすくなるかを、エスノメソドロジー/会話分析という方法で綾屋さんが研究している。
3.国リハの先生たちが始めた方法で、グループでポストイットなどを用いてKJ法を行っている。
→認知科学者が入っていて、実験に落とし込める質問を何か考えながらやる。
4.クラウドソーシングといって、インターネットを使って仮説を抽出する方法がある。これは最近、欧米で流行っている。
→検定もある程度自動化でき、専門家がいなくても仮説が抽出できる。


【パネルディスカッション】
伊藤(IGB理事長)からの質問
①当事者研究のきっかけ、どういう流れで広まってきたのか
②全国の当事者研究大会があった話、どのような障害種別の人たちが集まったのか
③聴覚障害者の当事者研究の現状は?


熊谷 晋一郎先生の回答
当事者研究が広まったきっかけについて、当事者研究という言葉は2001年北海道浦河の べてるの家 という精神障害者の生活拠点から広まった。 名前が生まれた年より前にも研究につながる取り組みはあった。
それに先立って、第一に、精神障害者を隔離せず地域で生活する流れが浦河にあった。第二に、ソーシャルワークの歴史があった。ソーシャルワークの方法には様々な変遷があり、最終的には当事者の主観的な経験を起点にしてソーシャルワークをするようになった。これも当事者研究誕生の背景のひとつである。第三に、依存症のグループでの語りを重んじた取り組みは100年近い伝統があり、これも当事者研究の源流のひとつとなっている。これらの潮流が合流して、当事者研究となった。
 当事者研究が広まった理由はたくさんある。一つには、障害や病気といったカテゴリーの有無と関係なく、困りごとを抱えた人はみな当事者であると、当事者の概念を広くとっている点があげられる。困りごとを抱えた人はたくさんいて、それぞれ自由に始めるため、垣根が低い。方法も手軽である。

もう一つの理由として、現代的な統治の形態に受け入れられやすいという点も無視できない。良い面も悪い面もある。自分(たち)で自分(たち)を反省し、熟慮し続け行動を自己コントロールする。この回復のイメージが、対人支援の現場で2000年以降目立ってきたと言われている。それがマッチしてしまったという面は否定できず、そうした統治形態に組み込まれない当事者研究独自の要素を大事にしていく必要がある。このあたりの論点は、社会学者の平井さんが書いた「刑務所処遇の社会学」を薦めたい。

 ②当事者研究全国交流集会での障害種別は、主に見えにくい障害。
 精神障害、発達障害、依存障害など、当事者研究の当事者は困りごとを抱えた人。それを自分で研究しようとしたら対象となる。ホームレス、家族、支援者、サラリーマン、被災者の当事者研究もある。障害のカテゴリーや有無を超え、困りごとの研究をしたい人が集まっている。


綾屋紗月先生の回答
③聴覚障害者の当事者研究の例について
ご自身も聴覚障害者である滋賀県立聾話学校の西垣正展先生からは、当事者研究のアイデアをもとに、外での困りごと、家での困りごと、学校での困りごとについて、子どもたちがお互いに話し合う実践が報告されている。また、同じくご自身も聴覚障害者である宮城教育大学准教授の松崎丈先生は、ご自身の当事者研究を試みられており、同大学の聴覚障害をもつ大学生の間でも当事者研究が行われている。このように、聞こえやコミュニケーションについて、聴覚障害者の世界でも当事者研究の取り組みが始まっている。


伊藤からの質問
見えにくい障害の方が集まって当事者研究大会が行われた。情報バリアの場合、聴覚障害者や発達障害や脳性麻痺の問題もある。他の障害の当事者研究を聞くことで、自分の研究に反映できると思う。違う障害の方が交流することはあるか?


綾屋紗月先生の回答
全国当事者研究交流集会では、依存症、吃音、ホームレスなど、さまざまな人たちの研究発表を聞くことができた。障害のカテゴリーは別でも、詳しい研究発表を聞いていると、重なる部分を発見し、共感や理解が進むことが多い。つながりをじんわりと受け取って持ち帰る感じがある。障害だけではなく、困った経験も当事者研究の対象になる。


熊谷 晋一郎先生の回答
数年前から体の「痛み」の当事者研究をしている。そうすると、身体障害者、薬物依存症、虐待経験者など様々なところから痛みの経験の話が集まり、痛みのメカニズムの研究が進んでいく。最近、依存症の方と論文を書いた。Skypeを使って、痛みで困っている人のミーティングをしようという話になっている。痛みを通じて色んなつながりが始まっている。


伊藤からの質問
西垣先生と松崎先生は、日本語が上手というところが共通している。しかし聴覚障害者の多くの方は日本語が苦手。 困っていることを手話では表せるが、日本語化が難しい。書いて残すことが困難。それが日本の聴覚障害者の当事者研究が進まない理由ではないかと思う。そのあたりはどうか?


綾屋紗月先生の回答
西垣先生と松崎先生にも同じことを質問されたので、例えばビデオに記録することやビデオから文字化(翻訳)することを提案してみた。


熊谷 晋一郎先生の回答
当事者研究でもこれは頻繁にされる質問、言葉を操れない人も当事者研究ができるのかと。試行錯誤がその答え。子供の当事者研究をしている先生方がいて、そこに可能性を感じる。絵や道具を用いる。言葉がうまく使えない子供から研究をしているが、試行錯誤しながらうまくいっていて感銘をうけている。言葉だけで展開することが当事者研究の全てではない。子供の研究がフロンティアを広げている。子供の実践が次の展開に広がると感じている。


会場(狛江市内小学校通級指導学級の教員)の回答
小学1-6年までの自分研究として困りごとを研究している。困りごとを絵やマンガで表現する。なぜ普通の教科書ではないのか、道具を通してわかる経験をしている。


綾屋紗月先生の回答
森村美和子先生は狛江市内の小学校の通級指導学級にて、当事者研究のアイデアをもとにした実践を行っている。例えば生徒の抱えている困りごとをポケモンのようなキャラとして表現しながら、子どもたち同士で困りごとや対処法について話し合ったり考えたりする取り組みについて報告されている。


伊藤からの質問
コミュニケーション手段を提供することで、当事者の本音を引き出すのですね。大人の聴覚障害者でも会社で気持ちをうまく表現できない人がいる。当事者研究の支援があるといいと感じた。
当事者研究は自分を発見することで、社会を変えるのは他の団体に任せる。NPOなどに情報提供したり、共にやったことはあるか?


熊谷 晋一郎先生の回答
当事者研究の団体と社会を変える団体が別とは考えていない。どの団体にも当事者運動の要素と当事者研究の要素の両方が入るようになるのが理想的であり、そのためだったらやり方のノウハウ、先行例など情報提供したい。関心を持った団体と始めていきたい。最近は、DPI,CILなど自立生活運動を中心にしてきた団体と研究要素を作ろうと考えている。表現を考え作る要素と、社会を変える要素は、一つの団体の中で車の両輪になるべき。これは、団体内のハラスメント予防やマネジメントにとっても重要。


伊藤のコメント
IGBも社会を変える活動をしてきた。当事者研究の根本でどういう立場で社会と関わっているか、どういうことに困っているか、一人一人はっきりしないと課題の本質が見えない。当事者研究が必要かと考えている、社会を変えるきっかけとして研究していきたい。

※一部、割愛しています。


所見:
多数派に標準を定めているところからその標準から外れた少数派との間に様々なコミュニケーションのずれというか情報バリアが生じていることを実感しました。また、社会全体が、多数ではなく、多様であるところに視点を変えるようにすることが情報バリアを解消する1つのきっかけになるのではないかと感じました。
社会のすべての人が多様な形態があることを理解し、認めることにより、多くの人が生きやすい社会づくりにつながるのではないかと思いました。

(文責:伊藤、記録:宮本)

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