Information Gap Buster 特定非営利活動法人

【ご報告】W3CのWCAG 3.0作業草案に対する手話・字幕要件の強化を要望

NPO法人インフォメーションギャップバスターは、2024年12月12日にW3C(*1)がWCAG 3.0(*2)の最新作業草案を公開したことを受け、手話と字幕に関する要件の明確化と強化を求める意見書をGitHub(*3)経由で送付いたしました。

(*1) ウェブの長期的な発展を目的として設立された国際的な標準化団体です。HTML、CSS、XMLなどのウェブ技術の標準化を行っており、ウェブアクセシビリティに関する国際的なガイドラインの策定も担っています。
(*2) W3Cが策定するウェブアクセシビリティの国際標準ガイドラインです。障害のある人々がウェブコンテンツにアクセスできるようにするための具体的な指針を提供しています。現在、WCAG 2.0(2008年策定)、WCAG 2.1(2018年策定)、WCAG 2.2(2023年策定)が正式版として運用されており、世界各国の法律や制度の基準として広く採用されています。
(*3) GitHubは、ソフトウェア開発やドキュメント管理のためのプラットフォームです。W3Cは各種標準の策定過程で、GitHubを通じて世界中の専門家や関心のある個人・団体からの意見や改善要望を受け付けています。今回の意見書も、このプラットフォームを通じて送付されました。

【Github】Clarifying and Enhancing Requirements for Sign Language and Subtitles in WCAG 3.0 #325


要望の背景

WCAG 3.0のドラフトを詳細に検討した結果、WCAG 2.xシリーズと比較して、手話や字幕に対する言及が弱く、特に手話への配慮が不十分であることが判明しました。手話を第一言語とするろう者のアクセシビリティを真に保障するためには、より明確で包括的な要件が必要です。


WCAG 3.0の現状

策定状況

  • 現在のバージョン: 2024年12月12日付けW3C作業草案
  • 正式版公開予定: 数年先の見込み(2025年以降)
  • 今後のスケジュール: 2025年9月までに正式なロードマップを提示予定

WCAG 2.xからの主な変更点

1. ガイドライン構造の変更

  • 従来の「原則-ガイドライン-成功基準」の三層構造から、「アウトカム(成果)」を中心とした構造に変更
  • より細かな粒度で、ユーザーのアクセシビリティ体験向上に焦点を当てた構成

2. 適合モデルの刷新

  • A/AA/AAAの3段階から、Bronze(ブロンズ)・Silver(シルバー)・Gold(ゴールド)の3段階に変更
  • 段階的な評価により、部分的な達成度も可視化

3. 適用範囲の大幅拡大

  • ウェブコンテンツからWebアプリ、モバイルアプリ、VR/AR、IoTデバイスまで包括
  • 名称も「Web Content Accessibility Guidelines」から「W3C Accessibility Guidelines」に変更

手話・字幕に関する扱いの変化

WCAG 2.xでの位置づけ

  • 字幕: レベルAの基本要件(事前録画)、レベルAAの必須要件(ライブ)
  • 手話通訳: レベルAAAの任意要件(事前録画コンテンツのみ)

WCAG 3.0での現状

  • 字幕: 引き続き基本要件として継承(Bronzeレベル相当)
  • 手話: 直接的な言及が不十分で、「希望する言語での代替提供」の中に含まれる程度

当法人からの要望詳細(GitHubに提案した内容の日本語版)

WCAG 3.0における手話と字幕の要件の明確化と強化に関する要望

背景と要望理由

手話を第一言語とするろう者にとって、単なる書き言葉の情報提供は十分な理解を得られないことがあります。自動生成字幕などの精度が低い場合や、話し言葉特有のニュアンスが伝わらない場合、アクセシビリティが著しく損なわれます。

WCAG 2.0では、手話通訳の提供がAAAレベルに位置づけられていたため、多くのコンテンツ提供者にとって「任意」の対応とされ、結果としてWeb動画などでの手話対応は非常に限定的です。真の情報アクセシビリティを達成するためには、手話と高品質な字幕を基本的な支援策として位置づける必要があります。

また、現在のWCAGガイドラインでは、「手話通訳」と「手話翻訳」の区別が明確にされていません。

  • 手話通訳:その場で話されている内容をリアルタイムで伝える役割に特化
  • 手話翻訳:不特定多数に繰り返し視聴されることを前提として、時間をかけて正確かつ丁寧な表現を作り上げる作業

繰り返し視聴されることが想定される動画では、質の高い表現が求められるため、「手話翻訳」を強く推奨します。

具体的な要望内容

1. 成果(Outcomes)としての明記

  • 「手話翻訳による動画の提供」および「音声コンテンツに同期した字幕の提供」を、別々の成果(Outcomes)として明記

2. 補足要件(Supplemental Requirements)への統合

  • 手話(通訳・翻訳)と字幕を、視覚・言語アクセシビリティにおける補完的で重要な手段として明確に位置づけ

3. 適合レベル(Conformance Levels)への具体的な反映

  • ブロンズ:基本的な字幕(自動生成や簡易的なキャプション)
  • シルバー:正確な字幕、文脈に応じた手話対応(通訳または翻訳)
  • ゴールド:文化的配慮のある手話表現、多言語字幕など包括的な対応

4. ユーザーの言語選好への配慮

  • 「希望言語(Preferred Language)」に応じた手話・字幕の提供(例:日本手話、英語字幕など)の反映

5. 字幕・手話の品質ガイドラインの導入

  • 字幕や手話の「ある・ない」だけでなく、正確性・話者識別・感情表現・文化的背景への配慮など質のガイドラインやベストプラクティスの導入

今後の展望

WCAG 3.0は現在も継続的に開発が進められており、当法人の要望が反映されることで、より包括的で実用的なアクセシビリティガイドラインの策定に貢献できると考えています。

手話と字幕の要件強化により、聴覚障害者の情報アクセス権がより確実に保障され、真のデジタルインクルージョンの実現に向けた重要な一歩となることを期待しています。


参考情報

※WCAG 3.0はドラフト段階であり、仕様は今後変更される可能性があります。最新情報はW3C公式サイトをご確認ください。

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